5.貴族の呼び出し
鉱山組合からの依頼が終わってから4か月と少し後。
我々は外の暑さから逃げるように、いつも通りの酒場の二階でエールを煽っていた。春先の依頼が終わって以来、酒を煽りながら少ない稼ぎを紙とペンに代えて、ベネリに読み書き計算を教わっている。
「団長、これが最後のテストです」
「おう!かかってこい!」
「この三つの依頼書を読み上げてください」
ベネリが酒場の依頼板から千切って来た、三つの依頼書を机の上に並べた。
「えーっと、これが……王都までの隊商のごえい……一日につき150レナール」
「正解です!じゃあ王都までの12日間で何レナールでしょうか?」
「……せん……1800……か?」
「合ってますよ!じゃあ次コレ!」
ベネリは正解した依頼書を引っ込めて、次の依頼書を指さす。
「うん?と?……やく草のさいしゅう……フェディキュア草10まい一束?で……100レナール」
「最低のどれくらいの採集って書いてますか?」
「5束」
「正解です!」
「あんだ?この依頼!フェディキュア50枚で500レナールとか誰がやるんだよ!薬師組合は狂ったのか!?」
「依頼人見て下さい」
「……個人の名前か?」
「はい。どっかのがめつい奴が、新人騙そうとしてるんでしょう」
「クソだな」
「はい、それは置いておいて最後のこれ!」
二枚の依頼書を手元に引っ込めたベネリは、最後の問題を真ん中に持ってきた。
「東街道のまじゅう退治……たいしょうは、ほーんウルフ。角狼か!えーっと一体につき200レナール」
「じゃあ12体倒した時の報酬は?」
「2400だな!簡単だ!」
「じゃあそれを団員に分配すると?」
今、団員は補充して30人を数えている。つまり2400レナールを30で割ると……
「……80レナールか」
「正解ですね!じゃあ100レナールにするには、何体狩ればいいでしょうか!」
「……15体か」
「正解でーーす!読み書き計算は、もう大丈夫ですね!」
「天才だろう!」
読み書きはいつも喋っている言葉に文字を当てはめるだけで、計算は元々金勘定が大好きだった俺は金に当てはめることで解決できた。呑み込みの良さに我ながら、天才と言わざるを得ないかもしれない。
「なに?”おべんきょう”してるの?お坊ちゃん」
頭の上から降り注ぐ艶やかな声の主は、この酒場の看板娘3人衆の一人であるカミラだ。綺麗なブロンドの髪と透き通るような青色の目に、色っぽい唇を持つ彼女はその美貌のみならず、デカい乳と尻、引き締まったウエストを持つ完璧とも言えるプロポーションだ。
「あぁ、もう読み書き計算、全部完璧だぜ?」
「ベネリ、本当なの?」
ベネリは彼女に目を向けることなく頷いている。どうやら気があるのかも知れないが、そんな弱弱しい態度を見せて、靡く女などいない事を後で教えてやらなければいけない。
「ふぅ~ん、本当なんだ」
「疑うなよ!お詫びに乳揉ませろ!尻触らせろ!」
我々にエールを運び終わり空になったトレーが、頭の上から降って来て鈍い音を立てる。「あんたに触れるほど安い体じゃないわ!」とか「せめて童貞を卒業してから言いなさい」だとか、散々な言葉を浴びせられる。この気の強さもカミラの魅力で、今ここで言い返せば100倍になって言葉が返って来る。
前に彼女に絡んでいた新顔が散々この罵声を浴びた後に、言い返せずに手を上げようとして、店にいた全員から袋叩きの上で店の外に放り出されていた。
「いやぁ、ごめんごめん」
「ふんっ!……あっ、そう言えばアンタ何かやらかしたの?」
「いやぁ?依頼は無難にこなしてるし……特にトラブルもないぞ」
「昨日の昼だったかな?『フクロウのブライトはいるか?』って騎士が来てたよ」
「騎士?なんで?」
騎士は言わばこの街の警察のようなものなので、それに名指しで呼び出されるのは少しばかり気がかりだ。かと言って、ここ最近の依頼は特に戦うような事もなく、死人も出ていないので呼び出されるような事はしていない。
「そんなのこっちの知ったこっちゃないわ」
「えー、何だよそれ」
「あっ!ほら!あの騎士だよ」
カミラが指さす先には、古いがよく磨かれた鎧を身に着ける壮年の騎士が居た。何やら話している様子だが、カウンターの男に俺の居場所を聞いたようで目が合う。
「知り合い?」
「いや、全く」
「何したのさ」
「知らんよ!!」
「まぁいいや!そいじゃ、私は退散しますね~」
そそくさと去って行くカミラの後ろ姿を目で追っていくと、階段を上って来た騎士が見えた。そこから目を逸らし素知らぬ振りをしてみるが、こちらに一直線に歩いて来る。
「君が、森の梟団のブライトか?」
「……そうだ。何か用か?依頼なら下の掲示板に頼むよ、こっちも依頼は選ぶからさ」
「依頼がある訳じゃない。領主様からの呼び出しだ、明後日の昼に領主の館に来るように」
「……行かなかったら?」
「その選択肢は存在しない」
領主様と言えばナントカ侯爵だかとかいう貴族だ。我々のような流れ者の傭兵とは、住む世界が違う奴らで関わる事はない。そんな雲の上の存在に呼び出されるとは、何事なのだろうか。騎士の表情から見るに、褒められる訳では無さそうだ。更に断ろうとしても、その選択肢は存在しないらしい。慣例によると貴族の命令に逆らえば、首を切られて広場に並ぶことになるので、もはや逃げることは不可能だろう。
「分かった……明後日の昼だな。俺だけか?」
「そうだ」
「分かったよ」
「忘れるなよ。忘れたら……分かるな?」
脅し文句を置き土産に騎士は酒場から出て行った。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。