3.盗賊の死に際
「5人か?」
「見た感じは」
「構えろ……殺れ!」
俺の号令によって5本の矢が放たれ、闇を飛翔し焚火を囲む5人の男を射抜いた。
「行くぞ」
20人の男が”ぬるり”と木立の闇から、焚火に照らされた空間に出現する。俺たちは、バルドンガードから3日北に向かったところで標的の盗賊団を見つけた。
「ベンソン、息があるのは?」
「コイツとコイツですね」
引きずられてきた二人は、肩と右胸に矢が突き刺さっていた。この二人に矢を放った奴を後々見つけなければならない。最初から殺せと号令をかけて、失敗しているような奴は特訓するかクビだ。
「おい、お前ら……おい、こっち向け。あと何人いる?先に答えた方を生かしてやる」
「……これで全員だ」
「盗賊如きが大した忠誠心だな。それがお前の命を短くした原因だ」
嘘をついた男の心臓に剣を突き出して、一突きで終わらせた。
「おい、お前もこうなりたいか?」
「……クソが」
「もう一度聞くぞ、お前らは何人いる?」
「これで全員…グホォ…」
もう一人の男が喋り切る前に、剣を振り喉を掻き切った。盗賊如きがここまで忠誠心を持っているのを見たことが無い。余程、頭が怖いのか……それとも他に何かがあるのか。言いようのない一抹の不安が過ったが、ここまで来た以上仕事を終わらせなければならない。
「お前ら配置につけ……ベンソン、お前はもう一人連れて中に潜んどけ」
「はいよー」
「一人でポケットに入れるなよ。仲間に殺されたくなかったらな」
「はいはい」
ベンソンともう一人を洞窟の中に入れて、待ち伏せをさせる。そうすることで少しでも敵の人数をけずるのだ。
残りの盗賊が現れたのは夜も半ばの頃だった。夜のひと仕事を終えて帰ってくると予想した時間と大差ない。松明を持って森の中から次々に現れる盗賊を、ひとりひとり数えていく。
(1.2.3.4......20)
明らかに倍以上多い。依頼にあった人数は8~9人だったはずだ。
いつもなら撤退も視野に入れるが、今回に限っては敵の洞窟までベンソン達を入れてしまっていて、撤退することが出来ない。
『合図で弓を撃て』
『了解』
木の上に陣取っている弓持ちに、手信号を送ると返事がきた。松明が放置されている焚火の周りに集まり、口々に「どこに行った?」「サボりやがって」「寝てるんじゃねぇか?」「叩き起こして来い!」と文句を言っていた。
結果的に中堅どころのように見える3人が、ベンソン達が待ち伏せしている洞窟へと入って行く。ベンソン達はうまくやっている様だ。叫び声も聞こえず、敵も帰ってこない。暫くすると更に盗賊が2人を送り込んだのだが、ここで叫び声が聞こえた。
「敵だ!!!お前ら行くぞ!」
『撃て』
盗賊が一気に動き出したところで合図を出した。
6人いた弓持ちのうち4人が倒れたが、2人はまだ健在だ。盗賊が矢の飛来によりこちらの存在に気付いたようで、松明を投げて来た。それに照らされる様な場所には陣取っていないが、盗賊は訓練された兵隊のように陣形を取り始める。過半数を倒せば盗賊を討伐したと認められるので、あとは逃げてくれればいいだけなのに完全に目論見が外れた。
『攻撃!』
俺の手信号によって傭兵が次々と闇から出現し、敵に切りかかり始めた。盗賊の動きとは真逆で、統率なんてあったものではない、バラバラな動きだ。これではどちらが盗賊かと聞かれれば、分からないと言わざるを得ない。
自分も敵に切り込みたいところだが、戦うときに厄介なのは逃した弓兵の存在で、彼らは前衛の隙間から相手の隙を的確に作る。こちらの弓持ちは前衛の味方の援護に回り、残り2人の敵弓兵を倒すのは自分の仕事だ。背中の袋から投げ槍を取り出し、盗賊の前衛から十分下がったところで、木立の陰で弓を構えた敵に向かって投擲する。
真っ直ぐ進んだ投げ槍は敵の弓兵の腹に突き刺さり、そのまま地面から動かなくなった。投げ槍が時代遅れだ何だと言ってくる奴らがいるが、それは騎士のような重装兵相手であって、傭兵が相手にするような相手には十分な威力をもたらす。
もう一人の弓兵に投げ槍を投擲すると、槍は空中で波打つように揺れながら、敵前衛の間をスルリと抜け喉を貫く。
あとは敵の前衛を倒すのみだ。体を硬直させ地面に倒れ込む弓兵を最後まで見ることなく、剣を引き抜き乱戦の中で必死に戦っている敵兵に向かって躍りかかった。
「これで全部か?」
「えぇ、団長。これで全部です」
目の前には敵味方の死体と、捕虜になった盗賊と、証拠の為に死体の首を切り落とす味方で地獄絵図だ。
(ん?)
一つの死体が気になって、その首を落とそうとする味方を制止する。
「おい!盗賊共!!こいつの名前は?」
その死体を指さして喋りかけるが、誰も答えない。
「おい……ベネリ!!首だけでも報奨金が出るんだったよな?」
「はい!団長!!出ます!」
「だそうだ。首で帰りたくなかったら答えろ」
「……」
それでも誰も答えない盗賊共に薄ら寒さを覚えた。どうしてここまで口が堅いのか?こんなに口が堅い盗賊は今まで見たことが無かった。そこから少し質問を投げかかてみるが、どの質問にも返事がない。
「団長。こいつの首はもうよろしいんで??」
答えが返ってこない問答に、痺れを切らしたベネリが問いかけて来た。
「あぁ……落とせ」
たった今、首を切り落とされた奴には見覚えがあった。前の傭兵団に居た奴だ。
大して仲良くも無かったが、傭兵団に居る割には真面目で良い奴だったのは覚えている。そこから他にも見覚えがある顔があるかと思って探してみたら、3人の顔に心当たりがあった。その3人とも特別な思い出がある訳でもないが、それでも昔の仕事仲間を殺すのはいい気分じゃない。
結局世の中は金だ。
こいつ等は真面目な人間でも、金が無くなればいつの間にか盗賊になって”さようなら”だ。
「おい、お前らの中で一番偉いのは?」
「……」
「答えねぇのか。なんでだ??って聞いても無駄だよな。この中で首で街に行きたくない奴は?最後のチャンスだ」
「……」
返事は無い。
彼らの後ろに立つベンソンに、首を切る合図を送ると全員の処刑が始まった。たった5人の処刑だ。大した時間もかからなかった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。