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『悪役令嬢は、既に死んでいた。』シリーズ

【コミカライズ記念SS】悪役令嬢は、既に死んでいた。

『悪役令嬢は、既に死んでいた。』がマッグガーデン様のアンソロジーにてコミカライズ(*´▽`*)

詳細は後書きにて。


というわけ、コミカライズ記念、感謝のSS投稿。

お楽しみいただければ幸いです(*´▽`*)


 マイゼンハウアーの一族が守る土地。

 それはヴァーセヒルダ王国の王都とは異なり、緑豊かな森に囲まれている。

 

 幼いころのミュラーとアストレアは、その森の中を散歩するのが好きだった。

 もちろん二人きりではない。

 幼馴染兼護衛見習い中のルキウスやアストレア付きの侍女であるヴェスタも数歩離れてついてきている。

 

 豊かな森は美しい。

 どこからか聞こえてくる鳥の声。川のせせらぎ。

 樹木の枝葉をかいくぐり、漏れるようにして地面へと差し込む日の光。

 

 アストレアはこの森の木漏れ日を見るのが好きだ。

 金色の糸を束ねたような木漏れ日の光は、兄のミュラーの髪のように美しい。

 

 うっとりと、光を眺めている間に、ミュラーとの間が空いた。

 慌てて、追いかける。

 

「ミュラーお兄様、待ってー」

「ああ、走るなアストレア。転ぶぞ」

 

 ミュラーが言い終わる前に、アストレアは「あっ」と言って、木の根っこに足を引っかけた。

 

「お嬢っ! 危ないっ!」

 

 とっさにルキウスが手を伸ばし、アストレアを抱きしめた。

 

「あはははは、転んでしまったわ。ルキウス、ありがとう」

「お嬢は外見に反して結構うっかり者なんですからっ! いきなり走らないでくださいよっ!」

「外見って、なによ」

「きれいで、女神様みたいに凛としたご令嬢に育ちそうなお顔をしているのに、意外と粗忽」

 

 アストレアは、ぷくっとほほを膨らませた。

 

「ひどーいっ! ねえ、お兄様、ルキウスったらひどいと思いません?」

 

 ミュラーは苦笑した。

 

「まったく。お転婆な淑女だな」

 

 苦笑しながらミュラーはアストレアに手を差し出した。

 アストレアはミュラーの手を取った。

 

「お転婆と淑女って矛盾してません?」

「あはは、そうかもな」

 

 手をつないだことで、アストレアのご機嫌も直ったらしい。

 笑顔であれこれミュラーと話している。

 ルキウスは「やれやれ」とつぶやいた。

 

「お嬢はほんとーにミュラー様が好きっすねー」

「ええ。だって二人きりのきょうだいだもの」

 

 ふふっと笑う。

 

「マジ、仲良くって妬けるっすねー。あー、オレもミュラー様みたいな兄貴が欲しかったっす」

 

 ミュラーが首をかしげる。

 

「……『アストレアみたいな妹が欲しい』ではないのか?」

 

 ルキウスは首を横にぶんぶんと振り続けた。

 

「嫌っす! オレ、ミュラー様みたいに完璧に妹をサポートなんてできませんっ!」

 

 ここまで一言も発せずついてきた侍女のヴェスタが、思わずと言った感で、くすりと小さく笑った。

 

「ヴェスタ?」

 

 滅多に感情を表に出さないヴェスタだ。三人は驚いてヴェスタを見た。

 

「失礼しました。アストレア様を妹にしたくない。ミュラー様を兄に持ちたい。つまりルキウスはアストレア様を娶りたいのかとつい思ってしまいまして……」

 

「え?」

 

 きょとんとした顔のアストレア。

 

「……ああ、なるほど。ルキウスがアストレアと婚姻を結べば、必然的に私がルキウスの兄になるか」

 

 納得顔のミュラー。

 

 ルキウスは、真っ赤な顔で「わーっ!」と叫んだ。

 

「恐れ多いっすーっ!」

 

 そんな軽口を交わしていたら、いつもより奥まで進んでしまったようだ。

 

 梢の間に、なにやら古い建物が見えた。

 

「あら? あれはなんですかお兄様」

「神殿だよ。我がマイゼンハウアー家が守護する土地の中で一番大切な場所だ」

「神殿? 神様がいらっしゃるの?」

 

 アストレアは不思議そうに神殿を眺めた。

 

「我が一族の死者は、あの神殿に行くのだよ」

「お墓……なの?」

 

 少し怖い気がして、アストレアはミュラーの腕にぎゅっとしがみついた。

 ミュラーは、ふっと笑ってから、アストレアの頭をそっと撫でる。

 

「それも兼ねているよ。詳しい話はアストレアがもう少し大人になってからかな。今はただ、あの神殿に向けて、しっかりと祈りを捧げておきなさい。我が一族の、守護の源なのだから……」

「ん、わかりました。お兄様」

 

 そうしてミュラーとアストレアは、神殿に向かい、祈りを捧げたのだった。もちろんルキウスもヴェスタも。

 

 

 

 幼いころの出来事をふっと思い出し、ミュラーは椅子から立ち上がり、窓の外を眺めた。

 ミュラーの執務室の窓からは、その神殿が見える。

 窓を開け、ミュラーは神殿に向かい頭を下げた。

 

「……妹を、アストレアを、生き返らせていただき感謝いたします」

 

 毎日毎日、ミュラーは神に祈りを捧げる。

 捧げるたびに、思う。

 

 父からの命令とはいえ、王太子であったオスカーとの婚約など承諾しなければよかった。

 そうすれば、ふたつある命とはいえ、そのひとつを失わせはしなかったのに。

 

「だが、もうこれ以上は失わせはしない。アストレアはこの私が守る」

 

 呟いたときに、ノックの音がした。

 

「入れ」

「失礼します、ミュラー様。アストレアお嬢様がお茶でもご一緒にと……」

 

 入ってきたのはハワードだった。

 これまではヴァーセヒルダ王都のマイゼンハウアーの屋敷で家令を務めていたが、一族の地に帰ってきた後は、アストレア専属の執事となってもらっている。

 

「行こう」

 

 スタスタと廊下を進むミュラー。

 浮き浮きとした感情を表しているその顔を見て、ハワードは思う。

 

 ……アストレアお嬢様の婿探しは、相当難航するだろう……と。我が孫ルキウスは、その候補と成り得るかな……と。

 

 

 終

 

お読みいただきましてありがとうございます。

それではコミカライズ情報。

挿絵(By みてみん) 

■書籍名

『悪役令嬢として破滅フラグは全てへし折ってあげますわ!~いろんな手段であらゆる不幸に「ざまぁ」します~ アンソロジーコミック アンソロジーコミック②』


■コミックス発売日&配信開始日

2025年4月15日(火)


■マグコミサイト https://magcomi.com/ にての試し読み(冒頭数ページ)

4月15日(火)12時(予定)から


■コミックシーモア様にての分冊版の独占先行配信(単話配信)中

 https://www.cmoa.jp/title/315442


■コミカライズ作画は楠木ひかる先生‼


ミュラーお兄様の作画が美しいです! 眼福!

子ミュラーと子アストレアもめっちゃ可愛いです……♡

(*´▽`*)こんな顔になっている作者です。


どうぞよろしくお願いいたします。




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