六分の一
細身の割にガッチリとした体格が身を包んだ上下紺色のスリーピース・スリムの上からも確認出来る。
中々の高身長で、一見すると二十代後半の清涼感漂うサラリーマン風……。
しかし、こちらも同じく、薄手の白い手袋。
「鶴太郎がお世話になりました。叔父の、鹿目和哉です」
(いやいや、どうしたって御曹司と執事でしょ!)
その出で立ちを見て、脳内に『黒の蝶ネクタイ』を補填せずにいられない。
この時の洸平は、未だ妄想に耽る余裕があった。
「ご足労いただきまして。店長の守田です。どうぞお掛けください」
誘われるまま、和哉は鶴太郎の席の隣に着いた。
「こちらは、その……」
切り出し難そうにしてる守田を見て、代わりに答える。
「京都府警の三木洸平です」
成り行き次第で『お役御免』も考えられる……洸平は軽い挨拶で済ませた。
「警察の方? 既に通報されていたんですね」
「あ、いえ。私は偶々、居合わせただけです」
「そう、ですか……」
(同じく、両手のソレを外す気配はない……か)
洸平の、その視線を感じた――和哉が、先に動いた。
「うちの男系は手掌多汗症の者が多くて、これは医師からの処方です」
戦慄が走った。
(まさか! 視線を見抜かれた?)