八分の五
「店長さんで宜しいですか?」
「はい、店長の守田です。」
「森田さん。申し訳ありませんが、こちらに漢字でフルネーム書いて貰えます?」
洸平は普段使いのメモ帳を開いてペンと一緒に差し出した。
(本部の刑事は何時でも準備万端、何処でも用意周到が鉄則や!)
青田班長のガナリ声が洸平の胸にこだまする。
(大丈夫! 本部二課として気は抜いてないはず)
「ここに?」
「はい。見た目通り、正式なものではありませんから、お気軽に……後、ふりがなもお願いします」
「これでいいですか?」
「はい、守田英昭さんですね。ありがとうございます。じゃ次は、君!」
頭の中で店長の名字を置換した後、洸平は少年の方を向き直して聴取を続けた。
「名前を教えてくれるかな?」
「鹿目です。鹿目鶴太郎」
「ここに漢字でフルネームとふりがなも書いてくれる?」
数枚ページを捲った状態で、今度は少年にノートを差し出した。
それを、そのまま受け取る少年……迷いの無さからして本人に自覚がない。
(手袋はしたまま……か)
故に外す素振りもない。
隣の守田も違和感を感じている様子。だが、敢えて触れない。
否、触れられる要素が無い。
「書けました」
「へぇ、鹿の目って書いてカナメ君か……」
「僕は万引きなんてしてません!」
一途な眼差しが洸平を貫く!
(大丈夫、ちょっと油断しただけ! 平然と平然と冷静に冷静に……子供って悪魔だろ、子供って悪魔だろ)
魅了をかけられた洸平は、呪文を唱えて状態異常に抗った。