五分の四
程なくして、二人の前に小さな朱色のお盆が運ばれてきた。
お盆の上では、水羊羹が敷物の白い蝋引き紙と共に、真ん中やや上よりで主膳を主張している。
(流石ね、この距離でお化粧の香り一つさせてない)
面白いのは、その下に設けられた二つの湯呑み。
一つには緑茶が既に点てられていているが、隣が空っぽ。
趣向の判らないまま、瑞稀は右手前の緑茶に手を伸ばした。
湯呑みからは、ほんのり微かな温もりが伝わってくる。
だが、敢えて触れず、黙って口に運んだ。
刹那に、舌が感じ入る。
(甘い、そして……瑞々しい)
これまでも、口当たりの甘い緑茶を含んだことはあった。
ただ、そのどれとも一線を画すのは、余韻の長さ。
茶葉が持つ、本来の苦味や渋味が後を追ってこない。
瑞稀の探究心が擽られる。
「これは?」
「水出しの緑茶を少しだけ温めました。今日みたいな天気の日には、こう言うんもアリかなと……」
そのままの口で水羊羹を頬張ると、潤った舌を通って一瞬で喉越しが涼やかになった。
こし餡の粒子が解けて小豆の風味が後を追いかけてくる。
和哉が絶品と謳うだけあって、口溶けの時間まで計算された技の粋が詰め込まれている。
そして何より、その職人の意図を存分に発揮するよう口内の温度管理がなされていた。
「嗚呼、沁みる」