七分の七
「あれ、誰も居ませんでした? 叔父さん出掛けてるのかな?」
「ん? 今、叔父さんって言った?」
「はい、ここの店主は僕の叔父ですが……」
「ちょっと待て! まさか露子の息子!」
先程までの感情も他所に、瑞稀の右手が鶴太郎の両ほっぺを一掴みにした。
「ひゃひゃ〈母〉と、ひりあい〈知り合い〉なんでひゅか?」
タコの口で抗いもせず、答える鶴太郎。
まさかの無抵抗に一旦、瑞稀は鶴太郎を解放する。
「冗談じゃないわ! 何で姉弟一緒に暮らしてんのよ」
「違いますよ。ここに住んでるのは僕と叔父だけで、母は市内の官舎にいます」
鶴太郎は手慣れた様子でテッシュを取り出し、何事もなかったように両頬を摩りながら答えた。
「官舎? そう、ふーん……あ、叔父さんなら直ぐ戻って来るわよ」
「そう、ですか」
「それにしても、よく似てるわね」
「……誰にですか?」
「昔の和哉よ! 決まってるじゃない。ちょっと気味悪いくらいよ」
「僕が? 叔父さんに!」
「そうよ。小学生の頃はコロコロしてて、可愛かったのよ」
「知りませんでした」
「貴方、お名前は?」
「鶴太郎です。鹿目鶴太郎」
「そう……鶴太郎、よしなさい! もう十分よ」
あれからティッシュを何枚使ったのだろう……。
何時までも頬を擦り続けている、鶴太郎を瑞稀が戒めた。
案の定、鶴太郎の頬は摩擦で赤く腫れている。
「こんなになるまで……どうして」
「触れないで!」
絶叫にチャイム音がかき消される。
衝動的に声を荒げた!
その声に硬直した二人は即座に行動が起こせない。
歩み寄る和哉にショックでキョトンとした顔の鶴太郎が漸く、声を上げた。
「叔父さん、お客さん」
「ああ、大声だして済まない。もういいから、鶴は部屋に入ってなさい」
「はい、失礼します」
一礼して退店する鶴太郎を見送るや否や、瑞稀の形相が変わる。
「どう言うことか、ちゃんと説明しなさい!」
「甥の鶴太郎です」
「それは、あの子から直接聞いたわ。そうじゃなくて事情があるんでしょ?」
「ええ、まぁ」
「何よ、私には話せないことなの?」
「そう言う訳じゃなくて……取り敢えず、奥へどうぞ」
(嗚呼、もう面倒臭い!)
「ちょっと和哉! まさか、面倒臭いだけじゃ無いわよねぇ?」




