第90話 あたしは、健一郎が初めて見せる顔を見る。
その後、時間になってサーキットを走り始めた健一郎は、お父さんと走り始める。
直後、お父さんは、あっという間に健一郎を抜かしていく。
「え?あんなにあっさりお父さんが抜くなんて」
そんなことを思っていると、お父さんはあっさり健一郎を置き去りにしていく。
「嘘!お父さん、まじでいきなり本気じゃん」
お父さんはそのまま、健一郎のことを引き離していく。
健一郎はお父さんを追いかけるけど、全く追いつく気配がない。
「健一郎……!」
結局、健一郎はお父さんを一回でも抜き返すどころか、ついていくことすらできず、時間切れになって戻ってくる。
戻ってきた健一郎の目は、それでもまだ、闘志を宿してた。
「大丈夫?」
「まだいける」
それだけ言って、椅子に座る。
その後も、健一郎はお父さんを意地でも抜こうとしたしたけど、結局一度として抜くことはできなかった。
「……」
最後に帰ってきた健一郎は、もうそれは、誰が見てもプライドを打ち砕かれたのが見てわかるくらいだった。
「健一郎、がんばったね」
あたしは、無言で座った健一郎に、キンキンに冷えたスポーツドリンクを渡す。
それから、健一郎のレーシングスーツを脱がして、汗だらけの肌を拭く。
「いい走りだった。だが、これが結果だ」
そんな健一郎に、お父さんが冷酷な現実を突きつける。
「粉々にプライドと思い込みが打ち砕かれただろう?
だが、君には夏休みの間に今まで持っていた、さきほど打ち砕かれたプライドより更に高いプライドを取り戻し、思い込みを完全に捨て去り、ぼくの指導の下でさらなる高みへと昇ってもらう。いいね?」
そんなお父さんの言葉に、健一郎が怒りに満ちた顔と、闘志を更に滾らせた雰囲気をまとって返す。
「上等ですよ。どちらにしろ、私には9カ月のブランクもありますし、ここまでボコボコにされたら、意地でも引き下がれません。あなたの指導に、死んでもついていってやります」
「ぼくはその言葉が聞きたかった。じゃあ、今日は片付けようか。麻衣、手伝ってくれ」
お父さんがあたしにそう言って、健一郎の前を離れる。
「麻衣、俺は着替えてくる。
その間、可夢偉さんが言った通り、撤収をたのむ」
「うん」
健一郎がさっきと打って変わって、普段通りの雰囲気に戻り、きりっとした顔であたしにお願いする。
あたしはお父さんの指示通りに、撤収作業をする。
「よし、忘れ物はないようだな。なら、帰ろう」
お父さんが忘れ物を確認したあと、家に向けて車を運転する。




