第88話 あたしは、健一郎の、あたしの知らない一面を見て驚く。
「じゃあ、健一郎くんの実力を知りたいから、まずは優子の前を走ってくれ」
「わかりました」
サーキットに着いてすぐ、健一郎がカートに乗る。
「おお、すごいな」
走り出した瞬間から、健一郎はすさまじかった。
サーキットを走り出した瞬間、ほかの人をすごい勢いで追い抜いて行って、挙句お母さんを置き去りにしていく。
「馬鹿な、速すぎる!!!
お父さんが、健一郎が走ってる様子を見て、驚いた声を上げる。
「ここまで速いなんて……」
そんなことをお父さんがつぶやいたとき、健一郎とお母さんが戻ってくる。
「完敗だわ。教えることなんて、ないんじゃないかしら」
お母さんが、そんな感想を漏らす。
「うーん、かもしれない。
でも、とりあえず今度はぼくが後ろ走るよ。
健一郎くん、大丈夫かい?」
「はい、いけます」
「なら、次の1ヒートもそれで全力で走ってくれ」
健一郎がわかりました、と言って椅子に座る。
「飲み物なにかいる?」
あたしが訊くと、冷たい水が欲しいと健一郎が言う。
あたしが冷えた水を持ってくると、健一郎が一気に飲み干す。
「すごいね。バイクでも速くて、カートでも速くて」
「ありがとう。でも結局、全てを犠牲にして得た速さだからね」
健一郎が苦笑いする。
「健一郎くん、行けそうかい?」
「はい、行けます」
「うむ。なら、乗ってくれ」
少し健一郎が休むと、お父さんが乗るように健一郎に言う。
そして、また健一郎が走り出す。
「あ」
今度は、周囲より圧倒的な速さで走るけど、健一郎とお父さんの差は開かない。
健一郎を、お父さんが煽る形になっている。
そして、お父さんが健一郎の乗るカートに、コーナーでちょっかいかけたその瞬間。
「あ!」
健一郎のカートがスピンする。
「ほっ」
その後すぐ、健一郎のカートは元に戻って走り始める。
「なるほど。彼には意外な弱点があるようね」
お母さんがその様子を見て、なにか意味深なことを言う。
「?」
あたしの顔を見て、お母さんが何か面白くなりそう、というような顔をする。
「麻衣にも、彼の弱点の克服を手伝ってもらう必要があるかもしれないわね」
お母さんが、あたしに不敵な笑みを向ける。
「え?」
「まぁ、そのときはお願いするから、健一郎君のお世話をお願いね」
そう言って、お母さんがサーキットのほうに目線を向ける。




