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第6話 俺は、姉の言葉に救われる。

「健くん」



姉だった。



「えっ?」



意外な人物が俺の部屋の前にいたため、俺は素っ頓狂な声を出してしまう。



「えっと、こんな夜遅くに私に何の用ですか?静さん」

「今からわたしの部屋に来て」

「え、それはどうしてですか?」

「いいから来て」



姉はそう言って俺の手首を掴んで、無理やり俺を自分の部屋へと連れていく。

今まで俺を自分の部屋に入れることなんかなかったのに、一体何があったのだろうか。

姉は俺を部屋に入れると、俺をベッドに座らせ、隣に座って肩がくっつくほどに体を寄せてくる。



「静さん。肩が接触する程体を近づける必要性は、一体どこにあるんですか?」

「いいじゃない。わたしたちは姉弟なんだから。姉弟ならこれくらい普通だよ?」

「いいえ、姉弟でこの距離は、明らかに近すぎます」

「ううん、近づきなんてことはないよ」

「いやこれは、いえもういいです。それで、私を無理やり自分の部屋に入れてまでして済ませたい用事とは、一体何ですか?」



俺を無理やり自分の部屋に招き入れた理由を、俺は姉に尋ねる。



「今日は健くん、何だかすごく元気がなかったから。どうしたのか訊きたかったの」

「今更何を。何もありません。なので何も心配することはありません」



俺は姉の質問に、即座にそう答える。

すると姉は、両手を俺の頬に当てて、俺の顔を自分のほうに向ける。

琥珀色の2つの目で、真っ直ぐ射貫くように姉が俺を見つめてくる。



「本当に?」

「はい」



互いに目を見ながら沈黙の時間が、しばらく続く。そして姉が沈黙を破る。



「健くん。本当のことを言って」



姉がすごく真剣な目つきになって、俺に何があったのか話すように促してくる。



「何もありません」

「嘘。何かあったでしょ?話して?」

「っ。実は」



俺は姉の目力に負け、今日の放課後に起こったことを、姉に包み隠さず話した。



「そっか、そんなことがあったんだ」

「ええ」

「でも健くん、どうして人を助けたのに、そんなに落ち込んでるの?」

「それは」



俺が理由を言うのをためらっていると、姉はさらに質問してくる。



「誰かを助けたことで、なんで健くんは暗い気持ちになったの?」

「いえ、その女性を助けた後。私思ったんですよ。私に助けられるなんて、相手からしたら恐怖でしかないって。

自分のしたことはただの自己満足の偽善でしかなくて、女性には自分の醜い感情を押し付けてしまって、申し訳ないって」

「それ以上は言っちゃだめ」



姉がものすごい剣幕で、俺の発言を止める。



「それ以上、自分を卑下することは言っちゃだめ」



姉は、すごく怒った顔でこちらを見ている。

姉が俺に対して怒ったのは、これが初めてだ。

こんな表情も姉はするのか、と内心驚いた。

そんなことを思っていた矢先、姉が怒った表情のまま俺に再び問いかける。



「健くん、聞いてもいい?」

「何ですか?」

「健くんは、なんでその女性を助けようと思ったの?」



姉は俺に、女性を助けた理由について訊いてくる。

俺は助けるときに思ったことを、正直に話す。



「このままだと女性が非道い目にあうのが目に見えていたので、とにかく助けないといけないと思いました」



姉は俺の言葉を聞いて、表情を和らげる。



「ならそれでいいんだよ」

「?」

「健くんはその女性を助けたかった。

本当は邪な理由だったとしても、その気持ちは本当でしょ?だから健くんは何も気にする必要はないよ」



姉はそう言って俺のことを弁護してくれる。



「ですが、何かのタイミングでもし再会することがあったときに、感謝されるどころか非難されるんじゃないかと思うと、気が滅入ってしまって」

「大丈夫。もし今回の人助けで助けた相手からそんなこと言われて傷ついたら、わたしが健くんの傷ついた心を癒してあげるから。わたしはどんなことがあっても健くんの味方だから」



姉はそう言って、俺の頭をなでる。

不覚にも、気持ちいいと思った。姉のなでなでが気持ちよくてくせになりそう、なんて思ってしまった。



「健くん。人助けをしたことに対して、そこまで自分を責めることはないよ。一人の人を助けたことは誇りに思っていいよ」



姉の頭なでなでとその言葉に、俺は救われた気がする。

姉が俺の行動を肯定してくれたことと、味方だと言ってくれたことで、すっと俺の気持ちが楽になる。

でも、こんなことは、いや、なんでもない。



「ところで健くん」

「何ですか?静さん」



姉が今度は真剣な表情で、俺に質問をしてくる。

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