第23話 俺は、生徒会長に強引に迫られる。
姉にオシオキされた翌日。
その昼休み。
俺はいつものように、生徒会室に呼び出されていた。
「いつになったら、あなたは私の夫になってくれるのかしら」
「いつの間に夫に変えたんですか。残念ながら、年齢的にまだそれはそもそも不可能です」
「そうね」
生徒会長のその言葉に、俺は的確に突っ込みを入れる。
今俺は、生徒会室に備え付けの折り畳み椅子に、折り畳み机を隔てて生徒会長と対面する形で座っている。
「そういえば、健一郎くんの誕生日はいつなのかしら?」
「3月1日ですが」
突然生徒会長に自分の誕生日を訊かれ、俺は率直に答える。
「とすると、結婚できる年齢になるのは再来年、この学校の卒業式当たりってことね」
生徒会長が俺の答えを聞いて、少し考えるような仕草をする。
「なら、その日に婚姻届けを出さないと」
直後、生徒会長がまじめな顔でそんなことを言う。
「その時に、生徒会長がこの町に住んでるとは限りませんよね?
まさか、俺が卒業する日にどこにいようと、それをするために帰ってくるとでも言うんですか?」
俺が聞くと、生徒会長は真面目な顔で答える。
「そうよ。当然じゃない」
「そ、そうですか」
俺は一瞬頭が真っ白になりつつ、困惑しながら答える。
何故困惑したか?生徒会長の目が本気だったからだ。
しかし実際問題として、高校の卒業式の日まで、俺が生きているとは限らないんだよなぁ。
それに、生徒会長が俺に対して持っているらしい好意を、その日まで持っている可能性は、ゼロと言い切ってしまっていい。
「ところで健一郎くん。私の名前は知ってるわよね?」
「綾瀬桔梗、でしたよね?」
唐突に生徒会長が、自分の名前を知ってるか確認してくる。
なので俺は生徒会長の名前を答える。
「そうよ。なのにいつまで経っても、あなたは私のことを名前で呼んでくれないわよね。
いつになったら、私のことを名前の呼び捨てで呼んでくれるのかしら」
生徒会長が、俺が自分のことを名前で呼ばないことに対して、不満に満ちた顔で言う。
「私は、生徒会長のことを名前の呼び捨てで呼べません」
俺は生徒会長の問いに、そう答える。
「どうして?」
「生徒会長のことを名前で呼んで、学校中の生徒の反感を買って、ここに通えなくなりたくないからです」
俺が生徒会長を名前で呼べない理由を言うと、生徒会長は言う。
「そんなことにもしなったら、私があなたを全力で守る」
それは男が言うセリフのような。
そして生徒会長の今の雰囲気が、もし俺がそんな状況に本当に陥ったら、その言葉通り全力を出しそうで怖い。とはいえ、実際のところは。
「だとしても、俺は生徒会長のことを、名前で呼び捨てなんてできません」
「ならせめて、苗字で私のことを呼んで」
俺がそう言うと、生徒会長は俺にそんな提案をしてくる。
「綾瀬先輩」
俺は生徒会長の提案に沿って試しにそう呼んでみるが、生徒会長は未だ不満そうな顔をする。
「先輩は付けなくてもいいの」
「いえ、これは譲れません」
「……わかった。まずはその呼び方でいいわ」
綾瀬先輩は、俺の頑固さについに不服という顔をしながらも、折れた。
だがそもそも、下級生が上級生のことを呼び捨てにするわけにはいかないのだから、これが落としどころだろう。
「ところで」
綾瀬先輩が不服そうな顔から、即座に真面目な顔になって、俺に質問してくる。
「今週の土曜日に予定は入ってるかしら」
綾瀬先輩が訊いてくる。
なんだろう、今週の土曜はとんでもないことが起きるんじゃないかって、ここまでくると思ってしまう。
「すみません。その日は、どうしても外せない用事があって」
俺がそう答えると、瞳の中をのぞき込むように俺のことを見る。
「そう。わかったわ。また次の機会に」
綾瀬先輩が意味深な表情をして、あっさりと引き下がる。
「そういえば」
綾瀬先輩がおもむろに立ち上がり、俺が座ってる席の横までやってくる。
すると突然綾瀬先輩は、俺の顎を右手で自分のほうに向けながら上げると、俺の顔をじっと見てくる。
「健一郎くんの顔を見てて思ったのだけれど、健一郎くんの唇、すごくきれいよね」
綾瀬先輩はそう言いながら、俺の唇を親指でなでてくる。
「綾瀬先輩、どうしたんですか」
「あなたの唇、とてもおいしそう」
俺がどうしたのか聞くと、綾瀬先輩は頬を赤らめて、そんなことを言う。
「え、いきなり何言ってるんですか綾瀬先輩」
綾瀬先輩が変なことを言うので、脳内がパニックになる。
俺はパニックを抑えながら、綾瀬先輩に何を言っているのかと聞く。
「健一郎くんは、キスしたことはあるの?」
すると、綾瀬先輩はキスの経験について、俺の質問を無視して、聞いてくる。
「はい?いや、ありませんけど」
俺が綾瀬先輩からのいきなりの質問に、嘘を答える。
「そう。なら私、今すぐ健一郎くんの唇を奪いたい。
あなたの初めてを奪いたい」
すると、綾瀬先輩はそんなことを言いながら、俺に迫ってくる。
「綾瀬先輩!?突然どうしたんですか!」
「何って、あなたの初めての人になりたいのよ」
綾瀬先輩はそう言って、急に顔を俺に近づけてくる。
俺は綾瀬先輩の肩を両手で抑えて、なんとかキスを阻止しようとする。
「健一郎くん、私とのキスは嫌?」
綾瀬先輩がじりじり近づきながら、俺に質問する。
「私達、まだそんなことするような関係まで進展してないですよね?だからもう少し、お互いのことをわかってから」
「関係の進展なんて関係ない。私はあなたのことが好き。そして私はあなたの唇が今すぐ欲しい。それの何がおかしいの?」
トンデモ理論を言いながら、綾瀬先輩は俺の後頭部に左手を回し、左腕の力も使って自分の唇を、俺の唇にどんどん近づけて行く。
おかしい。結構両腕に力をかけてるはずなのに、綾瀬先輩の顔がどんどん近くなっていく。
1cm、また1cmと近づいていきあと数mmで唇が触れるというところまで来たその時。
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了5分前を知らせる、ウェストミンスターの鐘が鳴る。
「残念。健一郎くんの初めてのキスは、またの機会に奪うとするわ」
そう言って綾瀬先輩は、俺を解放する。
俺は内心、激しくホッとした。
「きちんとキスしてもいいと、お互い思えるようになってからにしてください。それでは失礼します」
俺は綾瀬先輩にそう言って、生徒会室を後にした。




