第19話 俺は、駐輪場にいたギャルに突然話しかけられる。
(side:健一郎)
あれから一週間ほど経った。
生徒会長から毎日くる誘いを断っていたら、昨日生徒指導担当の教師から、連絡が来た。
「伊良湖、先週の事件での行為に対する処分を明日言い渡すから、生徒指導室に放課後来い」
そのため、今日俺は放課後に、生徒指導室に行かなければならない。
無罪放免だったらいいな、という無駄な希望を抱きつつ、俺はいつも通り駐輪場にバイクを止めようとする。
駐輪場まで来た時、一人の女がそこにいるのが見えた。
あれは。誰かは外見の特徴ですぐ誰かわかったが、俺は気にせずバイクを止める。
俺がバイクから降りた瞬間、その女が俺に近寄って話しかけてくる。
「おはよう、伊良湖」
「……おはよう」
駐輪場にいた女は、あの時助けた金髪ギャルこと栗栖だ。
俺は挨拶されたので返す。人間として当たり前のことだ。お前が言うなとか言われそうだが。
にしても、あの出来事の前も以降も、話しかけてくるどころか近づいてくることすらなかった。
なのに今日に限って栗栖のほうから話しかけてくるとは、一体どういう風の吹き回しだろうか。
「ちょっと反応薄くない?もうちょっといい反応してよ」
栗栖が俺の反応に対して、文句を言う。
「悪かったな。俺はいつもこんな感じだよ」
俺はぶっきらぼうに、栗栖の文句に答える。
「で?お前は一体何の用があってここにいる?」
俺は栗栖に、ここにいる理由を問う。
「あんたのこと待ってた」
「何のために?」
栗栖の回答を聞いて、俺は今の時間にここで待ち伏せして、話しかけてきた理由を訊く。
「いや、その」
すると、栗栖が言い淀む。一体何だ?
「この前は、その、あの男からあたしを逃がしてくれて、ありがとう」
栗栖が俺に、そんなことを言う。
ああ、あの時のお礼か。
「あぁ。気にするな。俺が勝手に首突っ込んだだけだから」
俺は全部の理由を理解し、栗栖にそっけなく返事する。
だが俺はふと思った。お礼を言うだけなら、わざわざここまでくる必要はない。
それがしたいなら、教室で待ってるほうが確実だ。
ここで俺を待ち伏せしてた理由は一体何だ?
「あんた、どうしてあたしがここにって思ってるんでしょ?」
栗栖が、俺が心の中で思っていた疑問を口にする。
俺は考えを見透かされて少し驚く。
「あんた、朝はわりとギリギリに近い時間に学校に来るでしょ。授業の合間はどこか行ってるし、昼はここのところ生徒会室に毎日呼び出されてるし。で放課後はさっさと帰るでしょ?
で、あんたがバイク通学って偶然知って、思ったわけ。
ならあんたがここに来た時か、ここから帰る間際しか話しかけるタイミングがないって思って」
「そうか」
俺はてきとうに返事する。
だが、俺には一つの疑問がふと湧いた。
あのとき助けた人間が俺だと、どうして分かったのか。
「だが、あの場に来た人間が俺だってわかった?」
栗栖は俺と同級でクラスも同じ。だが栗栖は、俺に一切の興味はない。
だから俺の容姿なんて全く見たことがないし、あったとしても全く覚えてないはず。
なのになぜ、あの場にいたのが俺だとわかったのか。
そこがわからなかった。
「あのあと、現場に行った先生が、名前教えてくれたんだ。」
なるほど。そういうことか。
俺がバイク通学で朝夕ここに絶対に現れることも、もしかすると後で先生から聞いたのかもしれない。
栗栖が俺を探し当てた理由はわかった。だが。
「最後に聞いていいか」
「何?」
「いろいろな理由があったとして、ここでお礼を言う必要性は?」
俺は栗栖にお礼を言われたとき、最初に思ったことを栗栖に聞いてみる。
「それはね、あの」
栗栖が言い淀む。
「何だ?」
「えっとさ、バイク通学の人ってこの学校にほとんどいないじゃん?
だから、ここに来る人ってほとんどいないわけじゃん?
だからさ、お礼以外のことも、ここなら言いやすいかなって思って」
俺は栗栖のその言いぐさに、脳内が疑問符だらけになる。
一体栗栖は、俺に何を言うつもりなんだ?
「あのね、あたし、あんたと」
栗栖が俺に何か言おうとしたその瞬間、ホームルーム5分前のチャイムが鳴る。
「そろそろホームルームが始まる。教室行くぞ」
俺はチャイムを聞いて、栗栖も教室に行くように促す。
「待ってよ、あたしも一緒に」
俺が一言言って教室に向かうと、、栗栖はそう言って何故かついてくる。
「俺と一緒に行く必要なんかないだろ」
「いいじゃん、別についていったって」
栗栖は俺にそう言って、結局教室に入るまで俺の横をついてくる。




