第16話 俺は、ギャルと男の喧嘩に割って入る。
「……」
俺はその光景に何も思うことなく、バイクに乗ってバイトに行こうとしたが、脳内に先週のことがよぎる。
俺はもう一度、金髪ギャルがいる方向を見る。
体育館の壁を背にしてギャルが立ち、男はその前でギャルに話しをしている。
外ということ以外、あの時と状況はかなり似ている。
「あの男は、絶対あいつに何かする」
そう直感で感じた俺は、男とギャルがギリギリ見えるところまで距離を取り、バイト先に少し遅れる旨を電話で伝える。
電話が終わった後にギャルと男がいる方向を見ると、クズ男がギャルに怒鳴っている。
だがギャルのほうも、男の言葉に対抗して捲くし立てている。
声がほとんど聞こえないので何を言い合ってるのかはわからないが、話がこじれたことだけははっきりわかる。
この前とほとんど同じ状況になっている。
「止めよう。このままだと、男のほうが手を出す可能性が高い」
俺はその様子を見て、男が何かする前に止めようと思い、二人のもとへ向かう。
「そこまでだ」
俺は男が手を出す前に、二人の間に仲裁に入る。
「何だァ?な、お前はこの前の!」
男は、仲裁に入ったのが俺だとわかった瞬間に、怒気を強める。
「あの時はよくもやってくれやがったな。ここで会ったが百年目だ。
てめぇをここでぶっ殺してやる!」
そう言って、男が突然俺に殴りかかる。
俺は男の動きを見切って、紙一重で避ける。
「ちっ、避けんじゃねぇよクソ野郎が」
男が俺にそう悪態づく。
「てめぇのすました顔がどこまでもムカつくぜ。
その顔を、どんな手を使ってでもでも歪ませてやる」
「お前如きにできるものか。できるものなら今度こそやってみろ」
俺は、男の意識を完全にこっちを向けさせるため、あえてその挑発に乗る。
俺が男とやりあってる間に、ギャルに逃げてもらおう。
「ナマ言ってんじゃねぇ!」
男が、俺に向かって右手でパンチをの構えをして、こちらに突っ込んで来る。
どこに打ち込もうとしているかは、素人でもこれはわかる。完全に俺の顔を狙ってる。
俺は、右脚を少し後ろに動かして男を待ち構える。
男が俺の顔に向かって拳を突き出すが、俺は男の拳を左手で受け止める。
「ちっ、クソが!」
男がそう言った直後、ギャルに俺は叫ぶ。
「逃げろ!」
俺の声を聞いたギャルは、一瞬戸惑った後、すぐにグラウンドの方向に逃げる。
「なっ!やられた。アイツを逃がすために、わざと俺の挑発に乗ったのか」
男はしてやられたという表情で、俺のほうに鋭い視線を向ける。
「ああ、そうさ」
俺が短くそう答えると、男は再び怒りの表情を見せる。
「ムカつくぜ。俺は先週と言い今日といい、お前のせいで二度も女を取り逃がしちまった」
俺にあの時と同じ敵意に満ちた顔を向けながら、男は俺に対して八つ当たりをしてくる。
「だからよぉ、ちょうどいいからその鬱憤とてめぇに対する怒りを、今ここで力づくで思う存分ぶつけることにするぜ」
男が右腕の力を急に抜いて、左の拳を撃ってくる。
一瞬体勢が崩れたが、拳を打つ先が単純な動きだったためにすぐ読めた。
俺は右手で、顔に向かって打たれた左の拳によるパンチを受け止める。
「このっ……なら!」
男がそう言って、左腕の力をいきなり抜く。
男が俺にすぐさま近づいて、全力でヘッドバットをかましてくる。
その瞬間、男の向こうに誰かが走ってきているのが見える。
「ぐっ!」
俺はそれを見て、あえて男のヘッドバットをまともに食らう。
「次はここだ!」
「何してる!」
男が次の攻撃をしようとした瞬間、男の後ろから声が聞こえる。
声のした方向を見ると、教師が複数名立っていた。
「喧嘩はやめろ!」
その声とともに、俺と男は教師に取り押さえられる。
「離せ!」
男が抵抗するが、あえなく取り押さえた教師達によって、どこかへ連行される。
「一体何があった」
俺を抑えてる教師が、先ほどの状況に至った経緯を質問してきたので、俺は詳細に説明する。
「そうか。栗栖と体育館にいた生徒から、ある程度話を聞いていたが、彼女たちの言っていたことは本当だったのか」
教師はそう言って俺を離す。
「本当にお前は、アイツに手を出してないんだな?」
「ええ、一切」
「そうか。だが一応事情が事情だから、事情聴取をする。私の後について、生徒指導室に来てくれ」
教師がそう言うので、俺はその後についていく。
「これで間違いないか?」
教師による事情聴取の後、その内容の確認を求められ、聴取内容をまとめたメモを見る。
俺はその内容に異論はないため、はい、と答える。
「よし、じゃあ今日は帰っていいぞ。処分が決まったら再度生徒指導室に呼ぶから、そのときはちゃんと来いよ」
「わかりました」
俺はそう言って、生徒指導室を後にする。
その後バイトに急いで行ったが、結局大遅刻し、散々怒られた。




