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第15話 俺は、生徒会長から突然求婚される。

はい?


私と結婚しなさい?

いきなり何を言ってるんだ、この人。



「すみません、生徒会長。何をおっしゃってるのかよくわからないのですが」

「今このときから、私の彼氏になりなさい、そして結婚できる年齢になったら、私の家に婿入りしなさい、私はあなたにそう言ってるのよ」



いやいや、いきなり婿に入れとか、意味が分からないんだが。



「えっと、何度聞いても、生徒会長の言ってることが理解できないんですが」

「私は単純明快なことを言ってるはずなのだけれど」



生徒会長は不服そうな目で、俺のことを壁ドンしたまま見ている。



「そもそも、なんで私にそんなことを迫るんですか」

「その質問に簡潔に答えるなら、先週金曜、あなたが私を窮地から救ってくれたから」

「はぁ……はい?」



先週の金曜?助ける?はっ!

まさか、あの時俺が無理やりあそこから連れ出した女が、生徒会長!?

そ、そんな馬鹿な。そんな偶然、あってたまるか。



「今まで私がどんな窮地に陥っても、周囲の人間は誰一人、一切私を助けようとはしてくれなかった。

でもあなたはあのとき、私のことを何も知らないにも関わらず、自分のことを省みず助けてくれた。

私にとっては、そのことがとてつもなくうれしかったの。

あなたが去っていったあの瞬間から、あなたに本気で恋したの」

「ちょっと待ってください、生徒会長。あなたを助けたのは俺じゃないです」



生徒会長が自分を助けたのは俺、という言葉に俺は疑問を抱いた。

なんで生徒会長はあの時、自分を助けたのが俺だと断定しているのか。

俺はあの時の状況について、生徒会長としゃべりながら思い出す。


思い出せ。あの時の周囲の環境・人間の配置を。

そして推測しろ。あのときあそこにいた人間の心理を。



「いいえ。あの時私を救ったのは、間違いなく伊良湖健一郎くん、あなたよ」



まず、あの時俺の顔が、女から見てはっきりと見えるような状況だったかを思い出す。


あの部屋の中の明るさと廊下の明るさの差からして、あの時の女は俺の顔は逆光でかなり見えにくかったはずだ。

仮に手をつかんだ時に見たとしても、俺が互いの顔がはっきり見える程近づいた時間は一瞬だ。それにその時、あの女はかなり動揺してた。

なら、自分を助ける相手の顔を見て覚える余裕なんか、どこにもなかったはずだ。

事実、俺自身あの時助けた相手の女の顔なんか、助けるのに必死で覚えてないんだから。

つまりあの時、どんな面でも、女が相手が俺の顔をはっきりと見れるような状況ではなかったはず。



「なぜ、私だと言い切れるんですか」



そこから導き出される結論は、あの時生徒会長が自分を助けた人間の性別は男だ、ということは声でわかっただろうが、その人間の顔をしっかり見て、はっきり覚えてる可能性は限りなく低い。


逆説的に生徒会長を助けた人間は、俺とは言い切れない。

言ってしまえば、生徒会長を助けたのは俺という可能性は十中八九ない。



「あの時助けてくれた男の人の顔が、手を取られたときにはっきりと見えたの」



なっ!あの時俺の顔がはっきり見えてたというのか!?馬鹿な!

そこで俺の思考は止まってしまう。



「その時に憶えてた顔と、顔写真と氏名が載ってる生徒名簿を照らし合わせて私を助けた人間があなただとわかったの」



なんて、瞬間記憶力だ。

模試で常に全国一桁の順位と言われる人間は、記憶力も段違いということか。

いや待て。

例えそうだとしても、生徒会長も人間である以上、俺の顔を細部まで完全には覚えてるわけがない。

ならやはり、俺があの時助けたのは生徒会長とは断言できない。



「ですが、それを証明できる物的証拠がない以上、俺があの時助けたのは生徒会長ではないです」

「健一郎くん、さっきあなたは『助けたのは俺じゃない』て言ったわよね?

本当に自分じゃないなら、『助けたって一体何のことですか?』て尋ねるはずよね?

その時点で、私を助けたのは俺だって、言ってしまってるのも同然よ」



俺は生徒会長に指摘され、はっとする。

確かにそうだ。生徒会長の言う通り、そもそも本当に知らないなら、何のことかとまず尋ねる。

しくじった。自分の失態に気づかされたと思った刹那、生徒会長が再び俺に迫ってくる。



「伊良湖健一郎くん。私はもう、あなたのことを心の底から好きになってしまったの。

あなたも男なら男らしく、私をこんなに惚れさせた責任を取りなさい」



生徒会長は右脚を俺の脚の間に入れて、体をさらに近づけてくる。



「今日からあなたは私の恋人で婚約相手よ。一切の反論は認めないわ。あとこれからは、私のことは名前で呼び捨てにしなさい」

「できません」

「やるのよ」

「できま」



俺がもう一度できません、と言おうとした瞬間に午後の授業開始5分前の予鈴が鳴る。



「予鈴が鳴りましたね。お互い、次の授業がありますよね?ですからもう放してください」

「そうね。彼氏を自分のわがままで困らせるのは、カノジョとして失格だものね。

じゃあまた明日、ここでお互いの愛を育みましょう」

「お断りします。あと私は、生徒会長と恋人同士になることにすら、同意していません。では私はこれで失礼します」



俺は生徒会長にそう言って生徒会室を出る。俺が教室に戻った瞬間、本鈴が鳴る。

危なかった。授業に遅れるところだった。



かくして今日も全部の授業を受け終わる。

バイト行くために駐輪場に向かう道中、俺は校内外でいろいろな意味で有名な同級の金髪ギャルが、先週生徒会長に言い寄ってた男に、声をかけられている場面に遭遇する。


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