第136話 ぼくは、確証を得る。
店に入ると、二人はエンジンオイルを売っているエリアにいた。
ぼくは、エンジンオイルを選んでいるらしい、二人に話しかける。
「やぁ」
ぼくのかけた声に反応して、健一郎くんがこちらを向く。
「あ、こんにちは。お久しぶりです」
健一郎くんはぼくに気づいてすぐ、ぼくに挨拶する。
彼の礼儀正しいところは、本当に好きだね。
「こんにちは」
「こんにちは」
続いて、お姉さんのほうもぼくに挨拶してくれる。
彼女、こうしてみると、かわいい感じの美女なんだね。
こんな女性が近くにいたら、今はもう恐らく。
「偶然ですね」
「あぁ、本当に偶然だ」
「えっと、もしかして綾瀬典史さんですか?」
「ん?私を知っているのかね?お嬢さんは」
「えぇ。よく存じ上げてます。
日本ではほとんどいない、四輪と二輪の両方をやる選手ですから」
お姉さんの言葉に、私もわりと知られてるものだな、と思う。
「そういえば、お嬢さんは確か、健一郎くんのお姉さんではないか?
耐久レースの記事で見たのだが」
「あ、綾瀬さんもご覧になったんですか。
そうです。わたしが健一郎くんの姉の、静です」
「お嬢さんは確か、"義理の"姉ではなかったかね?
健一郎くんに、元々きょうだいはいなかったはずだ」
「え?そこまで知っていらっしゃるのですか?」
「まぁ、ぼくは1年くらい前にあったあの事故を、知ってるからね」
ぼくがなぜ知ってるか説明すると、彼女は、なるほどと頷く。
「綾瀬さんの指摘は、間違ってません」
「やはり。ん、ここで身内話をしてもアレだし、この手の話はここまでにしよう。
エンジンオイルを買い、にかな?」
「そうです。
ちょっとどうしても今日中に必要になって」
「なるほど。ぼくもポカミスでバッテリ干上がらせちゃってね。
バッテリを急遽買いにここへ」
「お互いに緊急事態で、同じ店で鉢合わせって、どんな確率でしょうかね」
健一郎くんが、少し驚いた表情になる。
「ぼくも驚いたよ。
こんな美人な人と来てるもんだから、余計に」
「あ、そういえば。
お訊きたいのですが、もしかして綾瀬桔梗さんのお父様で?」
「あぁ、そうだ」
ぼくがお姉さんの質問に答えると、お姉さんが何かぼくに訊きたそうな顔をする。
「娘さんから、わたしたちのことは聞いておられて?」
「あぁ。去年の夏の時には、薄々気づいていたよ。直接はつい最近だがね。
なにせ、そんなの見てつけられたら、嫌でもわかる」
ぼくは、恋人つなぎでつながれた手と二人の距離を指で刺して指摘しながら答える。
すると、お姉さんが、釘を刺してくる。
「できれば、邪魔をしないでいただけますと、幸いです」
「横やり入れる気はさらさらないよ。
娘が幸せなら、ぼくはなにも言えないからね」
ぼくがそう答えると、お姉さんは安堵した顔をする。
「ん、これ以上の雑談は店の迷惑になるね。
ここまでにして、ぼくはバッテリ探すことにするよ。
邪魔して悪かったね」
「いえいえ。それではこれで」
「うむ、またどこかで」
ぼくはそう告げて、二人と別れる。
「やっぱり、そうだったのか。健一郎くんは、果たしてどうするつもりだろうね?」
ぼくはそんなことを考えながら、バッテリを探す。




