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第104話 俺は、栗栖と海を渡る。

9月のシルバーウィーク。



「待った?」

「いや、待ってない」



俺が駅前で待っていると、栗栖が俺の前に来る。



「じゃ、行こ」



栗栖が俺の手を引っ張る。



「あぁ」



俺は栗栖の後を、手を引っ張られながら、ついていく。

今日は、栗栖と海に行く。



「じゃあ、ヘルメット付けて」

「あ、ああ」



栗栖のバイクの後ろに乗って。



「栗栖、本当に大丈夫か?」

「大丈夫。じゃ、行くよ」



俺の心配をよそに、栗栖がバイクを発進させる。




しばらく栗栖の後ろに乗っているが、特に不安にならない。



「大丈夫?」

「ああ、問題ない」



栗栖が俺に運転のことについてだろう、訊いてくるが、そつなく返す。



「わかった。なら、このまま行くから」



俺が答えると、栗栖はまた運転に集中する。




「風、気持ちいいね」



そのまま走り続け、俺たちはフェリーターミナルから、島に行くフェリーに乗り込んだ。

その最中、栗栖がデッキに出て、風を感じる。



「ああ」

「一度さ、好きな人と二人乗りで出かけるってやってみたかったんだ」



栗栖が、にこやかに語り始める。



「でね、二人で海に行って、思いっきり遊びたかったんだ。

今日、この二つが叶って、本当によかった」



俺は、うれしそうに語る、栗栖の顔を見る。

それが俺で、栗栖にとってよかったのかと、俺は思う。



「健一郎、あたしの二つの目標を叶えた相手があなたで、本当によかったです」



栗栖が突然、俺のほうを向いて、すごく、すごく幸せそうな顔をする。

やめてくれ、そんな顔を向けないでくれ。そんな顔を向けられたら、勘違いするだろ。

そんなことを思った矢先、栗栖に抱き着かれる。



「あたしは、後悔なんてしてないよ。

あたしは、健一郎だから、こんなことを思ったんだから」



俺は、栗栖からの一言で、心がかなり揺らぐ。

危うく、本気で栗栖のことを好きになるところだった。



「今日は、いっぱい楽しもうね」



栗栖が俺から離れて、にこやかな笑顔を浮かべる。



「あぁ、楽しもう」



俺は、そんなわけ、ないだろ、と自戒しながら、答える。




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