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【書籍化】捨てられ転生幼女はもふもふ達の通訳係【Web版】  作者: はにか えむ
追憶編

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学園祭への招待4

「なあ、リルちゃん戻ってくるの遅くない?」

 決闘の直後、ハルキが言った。確かに遅すぎる。リルにはジャスティンがついて行ったから大丈夫だとは思うが、おかしな人に絡まれているのではと心配になる。

 

 みんなでリルを探すことになった。御手洗に向かう道を歩いていると、リルを見つけた。確かにおかしなものに絡まれている。リルとジャスティンは周りをぐるぐる回られて困惑していた。それは半透明な亡霊だった。たぬたぬがリアの腕の中で恐怖で震えだす。

「あれは学園を徘徊する亡霊です。危害を加える者では無いので大丈夫ですよ」

 マントンがホッと息をついて言った。


『なんだ、お前かオットー。久しいな』

 シドーが何やらガウガウ言うと、亡霊はシドーの元に飛んできた。

「シドーさんの知り合い?」

 開放されたリルがシドーに聞く。

『こいつはオットー。ウィルスの右腕だった男だ』

 オットーと呼ばれたその亡霊は首を縦に振った。

 リルがシドーの言葉を通訳すると、みんな驚愕した。

「この方があのオットー・マクリーなんですか!?」

 マントンはそう言うとシドーに詰め寄った。

 シドーは空間に光の文字を書く。

『あのというのが何を指すのかわからんが、コイツは間違いなくオットー・マクリーだ。可哀想に、天に昇ることが出来なかったのか』

 エルヴィスは歴史書に残るオットー・マクリーの記録を思い出した。この学園の初代学園長として、晩年まで国を支え続けたとされる人物だ。まさか学園の亡霊になっているとは思わなかった。亡霊の姿は老人では無いので、若い頃の姿なのだろう。

『オットーよ、死してなお国を守るつもりでいるのか?それは無理なことだ。現にお前は喋れもしないではないか』

 オットーは首を横に振った。そして自らの目を指さす。

『そうか、見守っているのか。ウィルスの作った国の未来を。お前は本当に忠義者だな』

 シドーはどこか寂しそうに言った。

 シドーは一度逃げ出したのだ。ウィルスの死を受け入れられず。ウィルスが作ったこの国を見ているのが辛くなって、住処へ帰った。

 それから暫く新たな通訳者が現れたと知るまでは、活動期と仲間に会いに行く以外で森から出ることなどなかった。

 それをこの男はずっと見守っていたのだ。何百年も、ウィルスが居なくても。亡霊になってまで。

 シドーは己を恥じた。自分は確かにウィルスの相棒だったのに。何故ウィルスが愛したこの国を見守ることすらしなかったのか。

 自分の長い寿命は一体なんのためにあるというのか。まだ間に合うだろうか。今からでも、命が続く限り、この国を守ることが出来るだろうか。シドーは考えた。

 

 オットーはシドーに一礼すると、ついてこいと言わんばかりに振り返りながら廊下を飛んでいた。

 全員でオットーの後をついて行く。学園長室の前まで来ると、ハルキの方を向いて壁を指さす。ハルキが壁を調べると、魔法で閉じられた空間があると言う。

「これ、開けるんじゃなく壊してもいい?俺の力じゃ開けられない」

 オットーは頷いた。ハルキが扉を壊すと、中はまるで宝物庫のようになっていた。古そうな物が沢山並んでいる。

 オットーはその中の一つを指さした。それはまるで大きな腕輪のようだった。

 シドーは目頭が熱くなった。それはウィルスが作ってくれたシドー用の腕輪だった。無くしたとばかり思っていたのに、ウィルスの死後、オットーが拾ってくれていたのだ。

 シドーは小さな翼で飛ぶと、腕輪を掴んだ。ウィルスとの思い出がよみがえってくる。シドーは腕輪を抱えたままリルの腕の中に戻った。

『感謝する、オットー。お前のおかげで大切なことを思い出せた』

 オットーは笑った。

『また会いに来よう。お前はまだずっとここに居るのだろう?』

 オットーは頷くと、エルヴィスの方を向いて部屋を指さした。

「中身を回収して欲しいということでしょうか?」

 正解だったらしい。オットーは壁をぬけてどこかへ消えていった。

 学園長室を沈黙が支配していた。誰もが驚き、何を言ったらいいのか分からなかったのだ。

「とにかく人を呼んで部屋の中身を回収させますね。リル達はそろそろ帰らないといけないでしょう。私はここに残りますからジャスティンや騎士たちに送ってもらってください」

 エルヴィスの言葉にやっと全員動き出した。

 リル達はマントンとパーネルに別れの挨拶すると、帰路についた。

 帰りの馬車の中ではシドーが腕輪を握りしめながらオットーとウィルスの事を話してくれた。その顔が以前より明るいように思えて、リルは少し安心した。

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