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学園祭への招待3

 その日パーネルは聖女に出会った。パーネルは敬虔なドラゴン崇拝の信徒だ。神獣もまた彼の信仰の対象だった。

 いつもドラゴンの住む神殿に飾られた聖女の絵を眺めては、こんな清らかで美しい女性と結婚したいと考えていた。特にパーネルの知る聖女が、美しくも清らかでもないわがまま娘のアリエルだったから、余計にその思いを強くしていた。

 

 留学していたウィルス王国の学園で、愛し子達の案内を任された時、正直パーネルは警戒していたのだ。アリエルのように傍若無人な人間が来るのではないかと。しかし、予想に反して愛し子達はみなそれぞれ尊敬できる人間だった。特にドラゴンを胸に抱いた『通訳者』だという少女は、これまでパーネルが会ってきた女性たちとは一線を画すほど清らかで心根の優しい人だった。

 そうパーネルはその日恋に落ちたのだ。仮面をつけていてもわかる、その整った美しい顏とキラキラと輝く愛らしい瞳。ドラゴンがその身に触れることを許すほどの信頼を寄せられている少女は、歳の割に落ち着いていて穏やかで聡明だった。

 ここでパーネルは考えたのだ。この国は絶対に愛し子である少女を国外に出さないだろう。だが婿入りならどうだろうか。長くこの国に留学している、友好国の第三王子。彼女の身分を考えれば丁度良い相手なのではないか。パーネルはその日必死にリルにアピールしていた。

 しかしリルは恋愛に関してはポンコツだった。パーネルのアプローチを親切な人だな位にしか考えていなかった。

 周りはみんな気付いていたのに、リルだけ気付いていなかったのである。神獣であるマロンと琥珀ですら気づいてパーネルを哀れんでいたのだ。

 

 それをリアがあまりにストレートに指摘したものだから、こんな状況になってしまった。

 初恋を相手の姉に指摘されて、周囲に哀れみの目で見られながら笑われるという状況に、パーネルは赤面していた。

「私はそこら辺のつまらない男にリルを嫁に出す気はありません。妹の相手は一途で能力も高く私より強い、金銭的にも性格的にも問題がない完璧な人間でなければならないのです」

 リアは堂々と言いきった。本気でそう考えているのである。

 パーネルはムッとした。自分では不相応だというのだろうか。

「お怒りのようですが貴方では力不足です。だって私より弱いでしょう?」

 リアは挑発するように言った。パーネルは負けじと言い返す。

「四つも年下の女性に負けるほど弱くは無いですよ。試してみますか?」

 リアはほくそ笑んだ。

「では決闘をいたしましょう。私が勝てばリルに求愛するのはやめていただきます。負けたら邪魔はしません。先に剣を落とすか、地面に足裏以外の場所がついたら負けです」

 リアとパーネルは立ち上がると、応接室から見える庭に降りた。

 二人とも腰に差していた剣をとる。

 マントンは突然始まった決闘におろおろしていたが、他のみんなに止める様子が全くないのでどうしようもなかった。

 愛し子組なんて楽しそうに応援している位だ。エルヴィスにも可愛い弟子の真剣勝負を止める気は無かった。何かあったら自分が泥をかぶろうとすら思っていた。まあ、多少怪我をしたとしても子供の喧嘩だ、国際問題には発展しないだろうと確信していたのだが。

 

 パーネルは女の子だから手加減しなければと思っていた。ドラゴニア聖国には剣を使う女性なんて居ないのだ。しかもリアが持っているのはレイピアである。大したことないと思っていた。

 それが間違いだったと気づいた時には、パーネルは散々剣で弄ばれた後、投げ飛ばされていた。剣の技巧でも、体術でもパーネルは完全敗北したのだ。

 リアは確信していた。前世からの積み重ねがあるリアとパーネルでは、リアの方が強いに決まっていた。何せ経験が違うのだから。

 その上リアは、今世でも前世のように強くなる努力を怠ったことは無い。レイピアはまだ使って少しだが、リアは並な相手なら一撃で殺せるだけの技量を身につけていた。ただ殺すのはまずいので投げ飛ばしただけだ。

 パーネルは自分はどれほど慢心していたのだろうと呆然としていた。恐らくリアは頭もかなりいい。四つも年下だと思えないほどの落ち着きもある。リアに自分の矮小さを見せつけられたようだった。

 決闘は負けた。しかしパーネルは諦めきれなかった。膝を突いてリアに乞う。

「いつか……いつかかならずリア嬢を納得させるだけの力を身につけてみせる。だからその時はもう一度だけ、勝負してくれないだろうか!頼む!」

 頭を下げそうな勢いで言うパーネルに、リアは面食らった。ちょっと虐めすぎたかと思っていたのに、まだ諦めないらしい。

 少しは見所がありそうだとリアは思った。

「良いでしょう。私とリル二人宛にするなら文通も許可します。ただ、約束は守ってくださいね」

 そう言うとパーネルに手を差し伸べる。パーネルは恩に着ると言いながらリアの手を取って立ち上がった。

 

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