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リアと剣3

 その日はレイピアの構え方から戦い方、できる限り全てを巻きで詰め込んだ。自分はそんなにしょっちゅう通える訳では無い。自分がいない間もできる限り自主練習できるようにとのエルヴィスの気遣いだった。

 だが少しやりすぎたかもしれないと反省した。終わる頃にはリアは疲れ果てて立てなくなっていた。この子は女の子だったと今更ながらに思い出す。あまりに弱音を吐かないから忘れかけていた。

 

「大丈夫かい?よく頑張ったね」

 エルヴィスはリアの頭を撫でた。するとリアは目を泳がせ挙動不審になっていた。ああ、この子はもしかしてちゃんと褒められたことがないのかもしれないとエルヴィスは思った。実家にいた時はとにかく時間の許す限り勉強させられていたようだし、ここでも守るべき妹が居る。妹優先で、自分は些細なことで褒められる生活をしていないのではないかと思ったのだ。

 エルヴィスは途端にリアが可哀想になった。誰かリアを甘やかしてやる人間が必要なのではないかと考えた。なら自分はもっと沢山褒めてやろうと思ったのだ。

 エルヴィスはリアの中身は大人の女性だ、などと思いもしなかったのである。

 エルヴィスはリアの頭を撫でながら、今日の良かった点を褒め始めた。

 疲れきって立てない足で座り込んだまま、頭を撫でられ褒め殺しにされるリアは恥ずかしさで死にそうだった。

 そういうのは結構ですと言ったが、エルヴィスは聞く耳を持たない。挙動不審でどうしたらいいのか分からない様子のリアの姿に、エルヴィスは先日拾った子猫の姿を重ねていた。

 エルヴィスがリアをとにかく甘やかしてやろうと決めた瞬間だった。

 

 それからのエルヴィスはリアにとにかく甘くなった。稽古に関しては一切妥協はしないが、間に褒め殺しと稽古後のご褒美が追加された。

 いっそもう指導はいいと言ってしまいたかったが、元々こちらの我儘で時間を作ってもらったのだ。こちらから断るのは失礼だろう。

 エルヴィスは呑気に、早くリアが子供らしく甘えられるようになればいいと思っていたが、リアからしたら大迷惑だ。かっこいいお兄さんにドロドロに甘やかされるのはリアの精神状態と心臓に悪すぎる。

 結果、リアはエルヴィスといる時は精神統一が必須になった。

 

 ジャスティンは兄とリアの様子を見て、兄の悪癖が発動したことを悟った。エルヴィスは可哀想な猫を拾ってきては甘やかすのが趣味のようなものだった。まさか人間であるリアにまでその悪癖が発動するとはジャスティンも思っていなかったが、あまり周囲に甘えないリアには丁度いいのではないかとも思っていた。

 リアがお前の兄だろ早く何とかしろという視線を送ってくるが、首を横に振って諦めろと伝える。兄は一度こうと決めたら絶対に自分を曲げないのだ。

 それにリアを大人しくさせられる存在は貴重だ、失いたくない。護衛としてリアのそばにいるジャスティンは、リルの為なら危険に自ら首を突っ込むリアに辟易していたのである。少しは反省しろと思っていた。

 

 状況を知ったイアンは腹を抱えて笑っていた。やはりあまり甘えないリアには丁度いいだろうと助ける気は無いようだった。

 リヴィアンは頭を抱えた。確かに相性はいいだろうと思った。思ったがこういう意味では無かった。まさか人間と猫の区別もつかなくなるとはこのバカ息子がと罵ってやりたくなった。

 だがしかし、リアには確かにちょうどいいのかもしれないとも思う。荒療治だが他人に甘えるということをしないリアには強制的に甘やかしてくれる存在が必要かもしれないと……リアの様子を見る限り余計なお世話なのかもしれないが、そう思った。

 唯一リアの置かれた状況を正確に理解していたのはアナスタシアとリルだが、とくに悪いこととは思わなかったので笑って流していた。

 

 結果誰もエルヴィスを止めることなく、リアは定期的にやってくるエルヴィスに甘やかされて構い倒されているのであった。

 唯一の利点はリアだけでなくリルとアナスタシアにも贈り物をくれる事である。外出も大抵三人まとめて招待してくれる。

 劇場のチケットなどをもらっては喜ぶリルにリアは何も言えなかった。

 

 そしてそれはそれで何だか腹立たしいと思う自分には気がつかないようにした。

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