リアと剣2
エルヴィスはリアの指南役を務めるにあたり、リアのことを調べ直した。すると彼女の生い立ちが想像していた以上に過酷だったことに気がついた。母親の言いつけでろくに外にも出られず、短い睡眠時間で勉強ばかりさせられていたらしい。その上スキルのことがわかると聖女として王に仕えさせられ、四六時中働かされていた。
エルヴィスはリアのことを気の毒に思った。今でもリアは拠点で妹を守るために努力を続けているらしい。リアも愛し子であり、守られる側なのだからそれに甘んじていても誰も文句など言わないだろうに。
エルヴィスはリアにどう接するべきか考えあぐねた。実際に会ってみてから考えようと早速拠点に向かうことにした。
足元を先日新しく拾った猫が通り抜けると、エルヴィスは笑って猫を抱き上げる。
動物が好きなエルヴィスは、実は拠点に行くのが少し楽しみだった。
神獣は自分の前にも姿を現してくれるだろうか。
拠点に馬で向かうと、前に来た時とは前庭がひどく変わっていた。
あの殺風景だった場所が神獣達のための場所に変わっていたのだ。
残念な事に殆どの神獣は森の中に逃げてしまっていたが、ジャスティンと一人の少女が出迎えてくれた。
「兄上?何しに来たんです」
ジャスティンが言うと、少女は納得したようで親しみのある目を向けてきた。突然の来客を警戒していたのだろう。
「父にリアの剣術指南をしてほしいと言われて来たんだ。どの子がリアかな?」
エルヴィスはアスレチックの影に隠れている子が二人いることに気がついていた。迂闊に顔をさらせない双子の姉妹は、誰かわからない来客に隠れるしかなかったのだ。
正確に彼女達の方を見て言うと、ジャスティンの横の少女に拍手された。彼女は年齢的にアナスタシアという愛し子だろう。
「すごーい!よく分かりましたね」
呑気に拍手するアナスタシアにジャスティンはため息をついてリア達を呼んだ。
なるほど、この少し大きい方の子がリアかとエルヴィスはすぐに気づいた。腰に剣を差していたからである。エルヴィスはとりあえず初対面の三人に挨拶した。エルヴィスは父のミニチュアと呼ばれるくらい父にそっくりだ。父に慣れているリルはすぐにエルヴィスに気を許した。
反対に、リアの方はまだ警戒しているようだった。正しい判断だ。
「僕が来たから神獣達は隠れてしまったのかな?」
そう言うと、リルが森に声をかける。リルが大丈夫だと言うと沢山の神獣が森からでてきた。エルヴィスはその光景に感動した。
神獣達に挨拶して怪しいものでは無いと分かってもらうと、次からは隠れなくなるという。
神獣は遠くの気配も掴めるのかと初めて知った事実に驚いた。
リアの腕の中にもいつの間にか丸々としたタヌキが居た。
やはり愛し子なのだなと感心する。剣などやめて守られて暮らせばいいのにと思ってしまうのは変えられなかった。
「しばらくリアの剣術指南をさせてもらうよ、リアはそれでいいかい?」
「はい、しばらくご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
そう言うとリアは丁寧に頭を下げた。ずいぶんと子供らしくない子だなとエルヴィスは思った。
まず最初にリアの腕前を確かめることにする。中庭に場を移し、二人は向かい合った。
エルヴィスは彼女の実力に驚いた。普通に少し歳上の男の子にも勝てそうな腕前だった。力は無いが、その不足分を技量で補っていた。神童と呼ばれていたのは伊達ではないのかもしれない。
それに、彼女は本気だった。グロリアのように世間知らずのお嬢様という感じでは無い。何もかもわかった上で剣をとっている。覚悟を決めた者の目をしていた。
この若さで何があればこんな風になるのだろう。エルヴィスには分からなかった。彼女の境遇は自分が調べたより過酷なものだったのかもしれないと、リアを哀れんだ。
リアの剣術指南をするにあたって、エルヴィスは剣をいくつか持参していた。父が剣を変えた方がいいかもしれないと言っていたからである。その話をリアにすると、確かに重すぎて長く握っていられないと言っていた。エルヴィスは軽いレイピアをリアに勧めた。今までの剣とは使い方が異なるが、女性には一番扱いやすいだろう。
構えなどは一から教えればいいとエルヴィスは考えていた。
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