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密猟者とお馬さん2

 アナスタシアが馬達の健康診断を始めると、すぐに一番小さい馬が怪我をしていることに気が付いた。

 聞くところによると、密猟者たちはこの一番小さい馬を人質のように扱っていたらしい。だから馬達は従うしか無かったのだ。

 アナスタシアは自身のスキルを使い馬の怪我を直した。アナスタシアの持つ『獣医』のスキルは、人間以外の生き物の傷なら大抵治せるのだ。

『感謝する、この子は怪我が治りきる前に長い道を走らされた。後遺症が残るかと心配していたのだ』

 リルが馬の言葉を通訳すると、アナスタシアは役に立ててよかったと微笑んだ。

『足が必要なら何時でも呼んでくれ、この恩には必ず報いよう』

 それならとアナスタシアが少し乗せて欲しいとお願いする。前世でよく乗馬体験をしていたので、久しぶりに乗ってみたかったのだ。リルやリアも目をキラキラさせて乗ってみたいという。馬は快く受け入れてくれた。

 足が不自由なアナスタシアは、自力で大きい馬にまたがれなかった。ジャスティンが持ち上げて上に乗せてくれる。アナスタシアは久しぶりの景色に大興奮していた。

 リルとリア、そしてジャスティンもそれぞれ乗せてもらってしばらく散歩を楽しむ。神獣は賢いので手綱がいらない。一人での乗馬初体験のリルも安心して乗ることが出来た。

 足を治してもらった子馬も、久しぶりの痛みのない走行に楽しそうに走り回っていた。

 その光景を、小さな神獣達が羨ましそうに見ていた。

 気づいた他の馬達は神獣達を乗せてやる。なんとも微笑ましい情景だった。前庭を走り回って満足すると、子馬が言った。

 

『僕ここに残って恩返しするよ。アナスタシアの馬になる!』

 アナスタシアは嬉しかったが、はっきり言って騎士じゃない自分が馬に乗る機会なんてそうそう無い。遠慮したが、子馬はもう決意を固めてしまったらしい。ほかの馬達も子馬の意思を尊重するようだ。

「そうだ、ジャスティンは私達の護衛なの、ジャスティンの馬になって私達を助けてくれると嬉しいな」

 アナスタシアは今ジャスティンに特定の相棒が居ないことを知っていた。馬が必要な時は他の騎士の馬を借りていたのだ。ジャスティンも相棒が欲しいだろう。

『護衛なの?僕一緒にアナスタシアを守るよ。良いでしょう?」

 子馬がジャスティンを見て言った。ジャスティンは狼狽える。

 確かに昔は父たちのような相棒が欲しかったが、今は神獣が相棒なんて恐れ多いと思っていた。

「夢が叶って良かったね」

 リルとリアが呑気にそう言ってくる。ジャスティンは誰も異を唱える人がいないことに困惑した。

「名前を付けてあげなよ」

 アナスタシアが言うと、子馬は目を輝かせた。

 ジャスティンは子馬の期待に満ちた眼差しから逃れることが出来なかった。

「じゃあ、ルーサーはどうだ?お前の名前」

『ルーサーだね!僕、一緒にアナスタシアを守るよ』

 リルに通訳してもらうと、ジャスティンは胸に込み上げてくるものを感じた。ずっと、マーリンとルイスのような相棒が欲しかった。そのためにひとりで森に入って死にかけたし、憧れは今でも消えていない。本当に自分に相棒ができたのだと嬉しかった。

 

 自身の相棒になったルーサーだが、彼は基本的にアナスタシアのそばに居た。一緒に護衛の仕事するための相棒なのだからそれでいいのだ。実際ジャスティンの負担は彼のおかげで軽減された。今までは一人で三人の護衛をしていたため、休息時間が短かったのだ。

 リアはある程度自分の身を守れるし、リルには琥珀がいる。アナスタシアにはタッキーが居るが、足の不自由な彼女を守り切れるかと言われれば怪しい。だからジャスティンはアナスタシアのそばをなかなか離れられなかった。少し離れている間彼女の身を守ってくれる者がいるのは心強かった。

 

 そしてその頃からだ、ジャスティンがアナスタシアの影の努力を知ったのは。

 朝、訓練前に厩舎のルーサーの元に行くと、毎回アナスタシアに遭遇した。この時間アナスタシアはまだ寝ていると、ずっと思っていた。

 アナスタシアは朝早くに起きて、厩舎の馬達の健康チェックをしていた。そして汚れていたら掃除をし、馬達が快適に過ごせるようにする。それが終わったらリルやジャスティン達に合流し、神獣達の世話をしていたのだ。

 ジャスティンは頭を抱えた。護衛でありながら気づかなかった自分が恥ずかしい。今度からは毎回手伝おうとジャスティンは決めた。

 それから二人は朝は厩舎で過ごすようになったのだ。

 

 ある時アナスタシアが言った。朝になると足の古傷が痛むことがあるので早く起きてしまうのだと。ジャスティンはそういう事は早く言えと叱り飛ばした。イアンに相談して、高名な医者から痛み止めの薬を処方してもらう。

 アナスタシアは我慢する必要なかったんだねと笑っていた。何でもひとりで抱え込もうとするアナスタシアにジャスティンは辟易した。

 ルーサーにアナスタシアが無茶しそうだったら止めるように念押しして、自身も気をつけて見るようにする。

 護衛対象の三人娘はそれぞれ別の意味で手がかかるなとジャスティンはため息をついた。

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