表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/118

エクス王国のドラゴンさん3

 リアはそっぽを向いてしまったリジェネに言った。

「本当にユリシーズさんのことが好きだったんですね」

 その名前を出した途端、リジェネは怒りを顕にした。

『そう、ユリシーズのことまで調べたの、なら分かるでしょう。私の気は変わらないわ、人間なんてもうコリゴリよ』

 リアはリジェネの怒りをものともせず話を続ける。


「控えめに言って最低ですよね、ユリシーズさん。リジェネさんの気持ちを蔑ろにし過ぎかと」

 リジェネは狐につままれたような顔をした。

「土足でリジェネさんの領土に踏み込んで好き勝手した挙句、自分が死んだら他の女との間にできた子供を、代わりにしろとばかりによこすその無神経さに呆れました」

 リアの言葉にアナスタシアは確かにと思った。リルは訳が分からずハラハラしている。

 リジェネは俯いて震えながらリアの言葉を聞いていた。そしていきなり顔を上げて言う。

 

『そう!そうなのよ!わかってくれる!?あいつは本当に無神経な男なのよ!』

 やっと理解者が現れたと言わんばかりにリジェネは話し出す。

 なんてことはない、人間にとってはドラゴンと人間の友情物語だが、当のドラゴンにとっては恋物語だっただけの話だ。

 一連の話を恋物語として聞いたら、ユリシーズは最低男である。リアは自分の憶測が当たったとほくそ笑んだ。


『もうこんな思いはたくさんよ!こんなに好きにさせておいてアイツはさっさと他の女と結婚して子供までここに連れてきたのよ。ドラゴンと人間なんだから、理解されなくても仕方ないって何度自分に言い聞かせたか!もうこんな思いは二度としたくないわ!』

 リアとアナスタシアはリジェネに同情した。シドーは通訳しながらもなんとなく状況を理解したようだ。

 

「ユリシーズさん、本当に無神経ですね」

 アナスタシアも会話に加わって、リジェネにお土産にと持ってきたお酒を勧める。リジェネは樽ごと一気に酒を煽ると話し出した。

 出るわ出るわ、ユリシーズに対して罵詈雑言の嵐である。

 リアとアナスタシアは相槌を打ちながらその言葉を聞いていた。シドーは男性が入れる話では無いのだろうと通訳に専念している。

 ジャスティンとリルは置いてけぼりであった。

 

 一通り話して落ち着いたのか、リジェネは俯いて言った。

『でも好きなのよ、不思議よね』

 リジェネは残りの酒を煽ると、また語り出す。

『ユリシーズを失った時の痛みはもう二度と味わいたくない。人間と交流していたらまた同じ思いをするのでしょう?だから人間とは関わりたくはないわ』

 結局そこに行き着いてしまうのかと、リア達は悲しい気持ちになった。

『でもそうね、今日は話せてスッキリしたわ。お酒もありがとう』

 リジェネはやはり優しいドラゴンなのだろう。ただ人間に恋をして傷つくだけ傷ついた。


「ユリシーズさんが死の間際に遺言を残していたそうです。リジェネを一人にするなって」

 リアが言うと、リジェネは目を見開いた。

『そう、あいつは死んでからも、私を苦しめるのね』

 リジェネの目には涙が光っていた。

『ユリシーズがそう望むなら、私に拒否するなんて出来るわけないじゃない』

 リジェネはユリシーズの望みなら何だって叶えたかった。それが最後の望みなら尚更だ。リジェネは暫く涙を零していた。

 

 

 

 ようやく涙が止まった頃、アナスタシアが言った。

「この国には『通訳者』の子が居るんです。まずはその子との交流からしてみたらどうでしょう?文字を教えてもらえば、シドーさんみたいに沢山の人間とも交流出来ますよ」

 アナスタシアの提案に、リジェネは戸惑ったような顔をした。

『私にできるかしら、もう何百年も人と距離を置いてきたのに』

 自信なさげに俯くリジェネに、リアが言う。

「ゆっくりでいいと思います。この国の『通訳者』のメリーは優しい子ですから、きっと仲良くなれると思いますよ。近々メリーにここに来るように伝えておきますね」

 

『何だか憑き物が落ちたような気がするわ。あなた達のおかげね。あなた達もたまには遊びに来てちょうだい』

 リアとアナスタシアは笑顔で頷いた。

 リルは結局最後までよくわからなかったが、リジェネが一人ぼっちでなくなるならこれで良かったのだろうと思った。


『そうだわ、お礼にこれをあげる。人間の間では高く売れると聞いたわ』

 そう言ったリジェネが差し出してきたのは数枚の大きな赤い鱗だった。

 生え変わりの時期があるようで、定期的に抜け落ちるらしい。

「リジェネさんの鱗なら、恋のお守りになりそうですね」

 アナスタシアが鱗を光にかざして言った。キラキラしてとても綺麗な鱗だった。アクセサリーに加工するのも良いだろう。

『そうかしら?むしろ叶わない恋に苦しむことになるんじゃないかしら』

 怪訝そうな顔をするリジェネにアナスタシアは言った。

「一人の人を思い続けるのって案外難しい事だと思いますよ?恋がずっと続きますようにってお守りです」

『人間は不思議なことを考えるわね』

 リジェネは笑っていた。

 リア達はシドーに乗せてもらって拠点に帰る。きっとリジェネはもう大丈夫だろう。

 

 

 

 後日、事の顛末を聞いたメリーが恋のお守りとしてリジェネの鱗を身につけると、鱗を模したアクセサリーが市井で大流行した。リジェネとユリシーズの恋物語は脚色され、本や歌劇の題材になった。

 本を読んだリジェネ本人はユリシーズはこんなカッコイイ男じゃなかったと零していたという。

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ