エクス王国のドラゴンさん2
リル、リア、アナスタシア、ジャスティンの四人は、イアンとリヴィアンの許可をとってリジェネの元に行くことになった。
行き帰りはドラゴンの背中に乗って飛んでゆく。ドラゴンの背に乗れるなど滅多にない事だ。リル達はとても楽しみだった。
「気をつけて行ってくるんだぞ」
見送りをしてくれるイアンは心配そうだった。
ドラゴンがついているのだから大丈夫だろうが、やはり心配は心配なのだ。
「うん!行ってきます!」
みんなでドラゴンの背に乗るとゆっくりとドラゴンが浮かび上がる。魔法で風を抑えてくれているのだろう、乗り心地は快適だった。
みんな事前に防寒具を着込んでいたので、上空でも寒くない。
どんどん小さくなってゆく街並みを眺めながらの空の旅はなかなか刺激的で楽しかった。リルは前世でも飛行機に乗ったことなど無かったから、空旅に憧れていたのだ。
大はしゃぎするリルを、みんな微笑ましげに見ていた。
「ジャスティンは大丈夫?」
アナスタシアがジャスティンに問うと、ジャスティンは首を横に振った。
「大丈夫じゃない、今にも落ちそうで怖えよ、何でお前らそんな平気そうなんだよ」
リルは楽しそうに下を覗き込んでいるし、リアはリルが落ちないようにリルの傍で見守っている。
アナスタシアも前世で高所には慣れているから平気だった。ジャスティンにとっては初体験だろう。アナスタシアは怯えるジャスティンが気を紛らわせられるよう話しかけ続けた。
快適な空の旅は一時間ほどで終了し、遂にリル達はリジェネの元までやってきた。
『またあんた!何しに来たのよ』
リジェネは深紅の鱗を持ったドラゴンだった。
リジェネは不機嫌そうにしっぽを地面に叩きつけている。
『今日は客人を連れてきた』
そこで初めて、背中に乗るリル達に気づいたリジェネは怒り顔でしっぽをより強く地面に叩きつける。
『人間なんて連れてくるんじゃないわよ!私はもう人間になんて関わるつもりはないわ!』
そう言いつつもこちらを攻撃するつもりはなさそうなリジェネに、リル達はドラゴンの背から飛び降りると挨拶した。
「初めまして、リジェネさん、リルと申します」
「リアと申します」
「アナスタシアです!」
「……彼女達の護衛のジャスティンと申します」
ジャスティンは内心、怒っているドラゴンに対して三人とも肝が座りすぎじゃないかと思っていた。
『挨拶なんていらないわ!すぐにここから立ち去りなさい!』
苛立ったリジェネの尻尾が地面にたたきつけられ、地面が割れた。
「わあ、すごい!」
リルは尻尾の威力に感動していた。リアとアナスタシアも一緒に拍手している。そうじゃないだろうとジャスティンは思う。三人娘の怖いもの知らずさにはいつもハラハラさせられる。
リジェネもこれには毒気を抜かれたらしく、戸惑った顔をしていた。
『ちょっとシドー、何よこの子達。ドラゴン舐めてんの?怖いもの知らずにも程があるでしょ』
シドーは可笑しそうに笑っていた。
『お前は恐ろしい存在ではないと、事前に話していたからな』
リルはドラゴンさんの名前はシドーというのかと、初めて知った事実に驚いた。他の神獣のように名前を持たないと思っていた。
「ドラゴンさんの名前はシドーさんっていうんですか?」
リルの言葉にシドーは笑いながら返す。
『ああ、ウィルスが付けた名だ。これからはそう呼ぶといい』
「シドーさん!ごめんなさい、今まで名前があるなんて知らなくて……」
落ち込んだ様子のリルにシドーは目を細めた。
『なに、名乗らなかったのはこちらの方だ。気にするでない』
シドーは小さくなると、リルの元へ飛んでゆく。リルはシドーを受け止めるとつやつやの鱗を撫でた。
『ちょっとあんた達、そういうのは他所でやりなさいよ!何しに来たのよ一体!』
リジェネは不機嫌そうにしている。
「そうだ、リジェネさんとお話しに来たんです」
リルは当初の目的を思い出して、リジェネに向き直った。
言葉が分からなくて置いてけぼりになっている三人のために、シドーは空中に光の文字を書いて通訳した。
『話?何よ、さっさと言いなさい』
「えっと、シドーさんが心配していたから、人間ともう一度関わるつもりは……」
『無いわ!そんな用事ならさっさと帰りなさい!私はもう人間なんて懲り懲りよ』
リジェネはリルの言葉を拒絶した。何を言っても焼石に水なのだろう。
リジェネはもうこうすると決めてしまっているのだ。その決意を変えるのは容易では無かった。
リル達はどうしようかと思い悩んだ。
今年10月から初めて小説を投稿し始めて、沢山の方に読んで頂けてとても嬉しかったです。
来年もどうかよろしくお願いします!
皆様良いお年をお過ごし下さい!




