ドラゴニアの聖女2
リルはジュリアナの足元に寄ってきたウサギを抱き上げると、ジュリアナに渡した。このウサギはかなり好奇心が旺盛で、何か新しいことを始めると必ず寄ってくる子だ。
ジュリアナは恐る恐るウサギを抱くとフワフワとした感触に笑った。
「愛し子というのは凄いのですね。我が国の神獣様は人間に触れさせたりは絶対しません」
リルは少し考えて言う。
「時間をかければちゃんと人間に慣れると思います」
「時間……時間ですか、そうですね。我が国もゆっくりと神獣様との距離を縮められたらと思います」
ウサギを撫でながらジュリアナは語り出す。
「我が国は活動期の期間中はドラゴン様が助けて下さいます。しかしドラゴン様だけでは手が足りず、多くの神獣様が亡くなってしまったのです。この国のように神獣様と人間が上手く連携出来ればまた違った結果になったでしょう」
ジュリアナは悲しげに俯いた。腕の中のウサギは心配そうにしている。
「活動期中のこの国の話を聞いた時思ったのです。私にもっと力があればと。前の聖女は……あれでしたから、なんの期待も出来ませんでしたし。でも、私が聖女になったからには、ドラゴニアを変えたいのです。崇めて縋るだけではなく、助け合える国に」
ジュリアナは顔を寄せてくるウサギを撫でた。
リル達は感心していた。ジュリアナはドラゴン崇拝の敬虔な信徒だと聞いていたが、年若い身空でここまでの決意を持って聖女になったとは思っていなかった。
『この人、いい人だね』
ウサギもジュリアナが気に入った様子で、腕に抱かれている。
それなら気合を入れて拠点を案内しようとリルは思った。
拠点の神獣たちと触れ合いながら、色々な場所を案内してゆく。
この国に住むドラゴンが、ドラゴニアのドラゴンに文字を教えたようなので、何かを導入すればきっとドラゴンが神獣達に説明してくれるだろう。
ジュリアナは真剣にリル達の話を聞いていた。
拠点を廻り終えると、神獣達を眺めながらお茶を飲む。
ジュリアナに抱かれていたウサギがリルの元へやって来た。
『この子について行っていい?』
それを聞いたリルとメリーは喜んだ。他のみんなは突然嬉しそうにしたリルとメリーに戸惑っている。
「この子がジュリアナについて行きたいって言ってるの!」
ウサギを抱き上げてジュリアナに渡す。ウサギはじっとジュリアナを見つめていた。
「まあ、本当ですか!嬉しいです!皆さんを見てパートナーに憧れていたのです」
さっきからずっと琥珀とマロンはリルのそばに居るし、たぬたぬやナツ、タッキーも付いてきていた。
ジュリアナは羨ましいと思っていたのだ。
「名前をつけてあげて下さい」
リルが言うと、ジュリアナは考え込んだ。
「ではリリアン、リリアンはどうですか?」
『やったー!名前をもらったの』
ウサギは大喜びでジュリアナに撫でてもらっている。
みんな拍手で祝福した。
それからは互いのパートナーの話で盛り上がった。
ハーニーはもっと色々なところに行きたいと、メリーを振り回しているようで困り果てていた。
鷹の方は今日からこの拠点に戻って来るらしい。賢い鷹が一緒に来てくれてとても助かったと感謝していた。
エクス王国の神獣との友好もかなり進んだようで、リル達は安心した。
ジュリアナは神獣のおやつの話になると興味を持ったようで、アナスタシアに色々聞いていた。神獣の種類ごとに量を計算して太りすぎないように管理していると聞いて感心していた。
一瞬たぬたぬの方を見たが、賢明なジュリアナは突っ込まないことにしたようだ。
たぬたぬはリアの膝の上で呑気にクッキーを頬張っている。アナスタシアが、次々とクッキーをたぬたぬの口に放り込むリアの手を掴んで止めた。
ハルキは笑って、コイツを反面教師にしろと言う。
ジュリアナは真剣な顔で頷いた。
ジュリアナとメリーに研究したおやつのレシピを渡すととても喜んでいた。
この交流会は大成功だろう。
一緒に来た他の大人たちが何を話しているのかは知らないが、コチラの雰囲気を見て安心しているようだった。
リル達はジュリアナとも手紙のやり取りをする約束をした。
ジュリアナに付いて行くことに決めたリリアンが、仲間たちにお別れの挨拶をしている。ハーニーも一緒だ。
大人達の言うことには、毎年この交流会を開催する事を検討しているらしい。
是非とも開催してほしいとリル達は思う。
ジュリアナとメリーに別れの挨拶をして、交流会は終わった。
きっとジュリアナは神獣との友好を成し遂げるだろう。ドラゴニアの神獣達が、人と共に幸せに暮らせるようになればいいとリルは思った。
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