ドラゴニアの聖女1
一度は書けなくなって筆を置きましたが、また書きたくなったので、追憶編として空白の五年間の事を書こうと思います。皆さんもうしばらくお付き合いください。
リルが部屋で寛いでいると、遠くから魔道具の鳥がやってきた。あの色はジュリアナからだ。
ジュリアナはアリエルの代わりにドラゴニアの聖女になった女の子で、エクス王国の『通訳者』であるメリーとも仲良しだ。
リルはジュリアナに会った時のことを思い出していた。懐かしいなと思う。あの時のジュリアナは使命感に燃えていた。今はドラゴニアも変わってきて少し落ち着いたが、まだ国を改革するのだと張り切っている。
リルはあの頃の出会いに思いを馳せた。
「ドラゴニアの新しい聖女が来るんですか?」
リアはイアンに問いかけた。
「ああ、ドラゴニアの聖女が是非にと希望してな、エクス王国の『通訳者』も合わせて交流会をする事になったんだ」
イアンはさらに続ける。
「ついでにこの拠点を視察したいとの事だから、交流会の会場もここになる。当日はハルキもこちらに来るそうだ」
前と違って今回は気負う必要が無い。メリーは既に聖女と対面して仲良くしているようで、性格も悪くないと聞いている。
リルは会えるのが楽しみだった。交流会の会場の準備はリル達の意見も反映されるようで、どんなおもてなしをしようか頭を悩ませた。
リル達の意見で、交流会は外で行われる事になった。拠点の前庭に天幕を張って前庭全体を見渡せるようにする。神獣たちが興味津々で寄ってきた。
『何してるの?』
『新しいおもちゃ?』
神獣たちは遊具だと思ったらしい。
「違うよ、ここにお客様が来るから準備してるの、イタズラしないでね」
神獣たちは残念そうだ。好奇心旺盛なキツネが誰が来るのか聞いてくる。
「前に来た女の子、覚えてる?その子ともう一人女の子が来るの」
ハッとした狐はソワソワして言う。
『また旅行希望者を集めるの?』
前回旅行できなかった事がよっぽど悲しかったらしい。
「今回は違うんだ、ごめんね」
キツネは目に見えて落ち込んでしまった。
リルは必死に狐を慰める。
「近場でいいなら今度車で連れて行ってやろうか?」
見かねたハルキがキツネに提案してくれた。
『いいの!?やったー!』
大喜びの狐に、他の神獣たちもソワソワしている。
「わかったわかった、俺が休みの日に順番な」
神獣たちは嬉しそうだ。
「ありがとう、ハルキさん」
リルがお礼を言うと、ハルキは気にするなとリルの頭を撫でた。
「リル、見て、可愛いティーカップ」
アナスタシアが交流会のために用意されたカップを指して言う。
女性陣が多いお茶会だからか、食器はみんなとても可愛いかった。
「それ俺絶対似合わないやつじゃん」
ハルキが笑って言う。考えてみれば若い女の子達の中にお兄さんが一人だ。気まずいだろう。
「女装でもします?」
アナスタシアがからかい混じりに言うと、リアが絶対似合わないと笑った。
準備は和気藹々と進んでいよいよ交流会の日がやってきた。
こちらは皆顔を隠すベールをつけている。アナスタシアは顔を隠す必要なんてないが、合わせてくれていた。
拠点に馬車が近づいてくる。久しぶりにメリーに会えるとリルはワクワクしていた。
馬車が止まるとメリーが降りてくる。その腕にはキツネのハーニーがいた。そして鷹も馬車から降りてくる。
「みんな、久しぶり!」
メリーは走ってリル達の元にやって来た。リルとメリーは手を取って喜び合う。
馬車からもう一人、十六歳くらいのピンクブロンドの髪の女の子が降りてきた。
メリーは慌てて彼女を紹介してくれた。
「この子はドラゴニア聖国の聖女のジュリアナだよ」
「初めまして、ご紹介にあずかりましたジュリアナです。この度はこちらのわがままを聞いてくださって、素晴らしい席を設けてくださったこと、嬉しく思っております」
ジュリアナは丁寧に挨拶してくれた。
こちらも一人ずつ挨拶してゆく。ジュリアナがいい子そうで、リアは安心した。
「前回の会談では前聖女が無礼を働いて、大変申し訳ありませんでした」
ジュリアナはしっかりとした子だった。もう聖女が代わったのだから、両国の友好のためにもその事は水に流して交流するべきだろう。
リル達はハルキ以外の大人たちを置いて、ジュリアナとメリーに拠点を案内することになった。メリーについていた神獣たちは、旅の思い出話をしに仲間たちの元に駆けて行った。
「本当に神獣様たちと距離が近いのですね。我が国も見習いたいです」
ジュリアナは拠点で寛ぐ神獣たちを見て言った。
いつもは知らない人間を見るとすぐに隠れてしまうのだが、今日は大丈夫だと言ってある。人間にだいぶ慣れたここの神獣達はリル達が大丈夫だと言ったら疑わない。
むしろ興味津々でついてくる子も居るくらいだ。ジュリアナはとても驚いていた。
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