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7.お祝い

 リヴィアンが帰ったすぐ後の事だった。ロザリンが買い物から戻ってきた。その馬上には一人の女性が一緒に乗っていた。

 リルはイアンに抱かれながら二人に近づく。

「ミレナも一緒に来たのか」

 ミレナと呼ばれた女性はイアンに気づくとおっとりとした口調で言う。

「あら、団長さんこんにちは。その子が小さな団員さんかしら」

「ああそうだ。さっき正式に養子縁組の手続きをしたから俺の娘になった」

 ロザリンが驚いて馬の手網を落としてしまった。

「ちょっと、いつの間にそんなことになったんですか!?」

「さっき兄が来てな……」

 ロザリンは開いた口が塞がらなかった。

「そうなの、それじゃあ今日はお祝いね。私はミレナよ。よろしくね」

「リル・ウィルソンです。よろしくお願いします!」

 穏やかなミレナにリルは元気に挨拶を返す。リルはきっとこの人が美味しいご飯を作ってくれた人だと思っていた。

「私はご飯を作るお仕事をしてるのよ。今日はご馳走だから楽しみにしててね」

 やっぱりそうだったとリルはご飯のお礼を言った。どれほど料理が美味しかったか一生懸命説明する。

 ミレナはあらあらありがとうとリルの頭を撫でた。

 イアンはリルの子供らしい態度に心が温かくなった。

「そうだリル。お洋服もお菓子も沢山買ってきたのよ。早く中に入りましょう」

 ロザリンは大はしゃぎでイアンの背を押して拠点の中に入ってゆく。ミレナは先に洗濯をするため洗い場に向かった。

 

 

 

「見てください団長!私が選びに選んだ最高の洋服たちを!」

 ロザリンは買ってきたものをリルによく見えるように並べ始めた。

 それは可愛らしいものばかりで、リルはワクワクした。

「これ全部、私が着ていいの?」

「そうだぞ、お金はお父さんが出すから心配するな」

 イアンは少し不安そうにしているリルの頭を撫でる。

 甘えるのも子供の仕事のうちだと『みちるちゃん』が言っている。リルは気兼ねなく受け取ることにした。

「ありがとう、お父さん、ロザリンさん」

 それからリルのファッションショーが始まった。リルは生まれて初めて靴を履いてちょっと窮屈な気分になったが、下を向く度可愛い靴が目に入るのが嬉しかった。ロザリンさんが次々着替えさせるため、全部試着する頃には疲れ切ってしまっていた。

 苦笑したイアンはお茶を入れてチョコレートを並べる。リルに休憩を促すと、椅子に座らせた。

 リルはチョコレートに興味津々だった。『みちるちゃん』の記憶で、これはとても美味しいものだと知っている。恐る恐る口に入れると、口の中に濃厚な甘みが広がった。リルは生まれて初めて食べたチョコレートに感動して次々に五つも食べてしまった。

 

 満足してイアンの方を見ると、イアンがルイスにチョコレートをあげていた。犬にチョコレートは毒だと『みちるちゃん』が叫んでいる。リルは慌ててイアンを止めた。

『私は神獣だから食べられないものなどほとんど無いぞ。心配するな』

 ルイスの言葉にリルは安堵した。

「『みちるちゃん』は物知りなんだな。普通の狼がチョコレートを食べられないとは知らなかった」

 イアンの中で『みちるちゃん』の評価はかなり高かった。さぞ高名な人物だったのだろうと思っている。実際はごく普通の異世界人であった。

 

 

 

 そうこうしている内に、森を巡回していた騎士たちも戻ってきた。

 ロザリンの買った水色のワンピースで出迎えたら、可愛いと皆が褒めていた。

 ヘイデンに持ち上げられてグルグルと回されたリルは驚いたが、なぜだかとっても楽しいと感じた。

 正式にイアンの娘になった事を伝えると、皆驚きつつもお祝いしてくれる。リルはくすぐったい気持ちだった。


 食堂に行くと、ミレナが豪華な料理を作ってくれていた。全員が歓声をあげる。

 ミレナはいつも夕飯と朝食の支度をしたら帰るらしいが、今日はお願いして残ってもらった。みんなにお祝いして欲しいというリルの我儘だったが、ミレナは快く受け入れてくれた。

 ヘイデンがグラスをかまえる。乾杯は副団長がするようだ。今日は団長であるイアンも主役だからだ。

「それでは、団長とリルの養子縁組とリルの入団を祝ってカンパーイ!」

 皆乾杯すると一気にグラスの中身を飲み干した。リルも真似しようとしたが、イアンに止められる。別に飲み干すのがマナーな訳では無いらしい。お酒はああして飲むのがいいだけのようだ。

 リルはご馳走に目を輝かせてどれから食べようか悩んでいた。するとイケおじのマーティンとミレナが色んな料理を少しずつ皿に盛ってくれた。

 リルは沢山食べた。すぐにお腹いっぱいになってしまって残念だったが、とても幸せな時間だった。皆はまだお酒も料理も足りないようで宴会は続いている。リルはルイスにテーブルの上の料理を食べさせてあげた。

『うん噛む度肉汁が溢れるのにこのサッパリとした後味。なかなかの腕だな』 

 一種類ごとに真面目に料理の感想を言ってくれるのが面白く、つい全種類食べさせてしまった。

 ミレナにルイスの感想を伝えると、神獣様に褒められるなんて光栄だと喜んでいた。

 

 イアンだけは今日はお酒は飲まずにリルの様子を窺っていたが、終始楽しそうにしていて安堵していた。長く続く宴会は終わりを知らず。途中でイアンがミレナを馬で街に送っていった。

 

 イアンが戻ると、リルはルイスを枕に眠っていた。そのままルイスの上に乗せて部屋まで連れていこうとした。するとリルが突然勢い良く起き上がった。そしてイアンを見てこう言った。

「良かった、夢じゃなかった」

 リルの目は涙で曇っていた。イアンはその痛ましい様子に悲しくなった。

「大丈夫だ、夢じゃないよ」

 頭を優しく撫でるとリルは落ち着いたようだ。

「一緒に寝るか?」

 イアンは自分でも驚くほど自然にそう言っていた。

 リルは嬉しそうに笑った。

「一緒に寝てくれる?お父さん」

 今日親子になったばかりなのに、もう父性が芽生えたように感じられてイアンは少し笑ってしまった。こんな生活も悪くないと、確かにそう思ったのだった。

 

『私も一緒に寝てやろう』

 ルイスがそう言ったらしいので、今日は三人で眠ることになった。

 願わくばリルが昔を思い出さなくて済むようにと、イアンは祈った。

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