67.茶番
リア達の準備が終わると、宰相がドラゴニアの使節団の内の一人と聖女を連れてきた。聖女は沢山の宝石を付けた煌びやかなドレスを着ている。正直場違いであった。
使節団の男性はドラゴンの存在に驚いてた。そしてリアの腕に抱かれている神獣にも驚いた、愛し子という話は本当だったのかと顔色を悪くする。
「愛し子とか言うからどんなのかと思ってたけど、顔を隠さなきゃならない程ブサイクなの?ベールを取りなさいよ。不敬だわ」
聖女はこの場でいちばん立場が上なのは自分だと錯覚している。実際は同盟国とはいえ格下の国の小娘でしか無いのだが、神の使いであるドラゴンに選ばれたのだから自分が一番だと思っているのだ。
男性は慌てて聖女の口を塞ぐ。挨拶すらせずこの態度だ、よく他国に出せるなと思うリアだった。
「今の発言はこの国に対する宣戦布告ととって宜しいですか?」
リヴィアンも珍しく切れている。ドラゴニアの司祭服を纏った男性は慌てて無理やり聖女に頭を下げさせた。
「申し訳ございません。なにぶんアリエルは幼いもので、どうか寛大な御心でお許しいただけると……!」
無理やり頭を下げさせられた聖女は何故そんな事をしなければならないのかと憤慨している。
十五歳は幼いとは言わないだろうとツッコミたかったリヴィアン達だったが、とりあえず静観することにした。
「そちらの要望で会わせたのに、我が国の宝を侮辱したのです。二度目はないと思ってください」
司祭服の男性は聖女にもう一言も喋るなと言いつけていた。
聖女は不服そうにしている。
「私はドラゴニア聖国より参りましたハロルド・チャイルズと申します。こちらは我が国の聖女アリエル・マルダーです。この度はこちらの願いを汲んで下さり感謝いたします」
リア達も自己紹介をする。
事前に習っていた礼法に従い優雅に挨拶すると、ハロルドは感心したようだった。リアはスカートでは無いので男性の礼法だが、長年貴族令嬢だったためか様になっている。
足元に降りたたぬたぬがなぜか誇らしげな顔をしていた。
挨拶が終わると、リアはこの国と同盟を結んでいるドラゴンを紹介した。するとハロルドは地に膝をついて敬意を示す。ドラゴニア聖国にとってドラゴンは崇拝の対象だ。活動期の時もドラゴンのおかげで被害が最小限で済んだという。
アリエルは何もする様子がない。本当に聖女かとリア達は思った。まさかドラゴンと自分が対等だとでも思っているのだろうか。
あまり堅苦しいことを好まないドラゴンも、アリエルの態度を訝しんでいる。
ドラゴンは魔法でペンを浮かせて文字を書いた。
『お前たちの国のドラゴンは息災か?』
ハロルドはドラゴンと意思の疎通ができることに感動して答えた。
「はい、お元気に過ごされております」
ドラゴンは頷くとまた文字を書いた。
『奴と少々話をしたいのだが、ここに呼んで構わぬか』
ここに呼ぶとはどういう事かとハロルドは思ったが、ドラゴニアではドラゴンの言うことは絶対だ。
「もちろん構いません」
そう言いきった時、アリエルの声が聞こえた。
「貴方、良いわね。私の専属にしてあげるからドラゴニアに来なさいよ」
アリエルはジャスティンに向かっていう。
「彼は私の息子ですが?」
リヴィアンはかなり苛立った口調で言う。それを聞いたハロルドは顔面蒼白だ。
王の甥に専属護衛になれなど失礼なんてレベルでは無い。
「ますますいいじゃない、私にふさわしいわ」
リヴィアンは笑顔のままハロルドを見る。完全に目が笑っていない。
ハロルドは最早真っ白になっていた。
その時ドラゴンが大きな咆哮を上げた。リルが居れば仲間を呼ぶ声だとすぐにわかったのだろうが、ハロルドはドラゴンが怒ったのだと思った。慌ててアリエルを引きずって頭を下げさせる。
「本当に、本当に申し訳ございません。アリエルにはコチラからよく言って聞かせますのでどうかお許しください。我が国は誓ってウィルス王国に対して決して叛意などございません」
平謝りするハロルドに、リヴィアンはため息をついた。
「この事は国から改めて抗議させていただきます」
リヴィアンにはすでにこの茶番劇の裏事情が読めていた。おそらく何も知らないであろうハロルドは可哀想だが、仕方がない。まあ何があってもハロルドが責任を取らされることは無いのだろう。
一息つくと上空からドラゴンが飛んできた。ドラゴニア聖国のドラゴンだ。ドラゴンは庭園に降り立つと、ウィルス王国のドラゴンにシッポで叩かれていた。何やら説教をされているようだ。リルが居ればドラゴン同士の会話が聞けたのにと、リアは残念に思った。
力関係ではウィルス王国のドラゴンの方が上らしく、ドラゴニアのドラゴンは平伏していた。
暫くしてウィルス王国のドラゴンが文字を書く
『そこのアリエルとかいう娘を聖女から降ろすと言っている』
ドラゴニアのドラゴンがウンウンと頷いている。
『今後聖女は知性と教養あるものから選ぶそうだ』
ドラゴニアのドラゴンはまた必死に頷く。なんだか下っ端感が強いドラゴンだなとリアは思った。
一連のやりとりを見たアリエルは呆然としていた。この期に及んで何故自分が聖女から降ろされるのか分かっていないのだ。
アリエルが首になると知ったハロルドは嬉しそうだった。今まで苦労してきたのだろう。
「急いでこの事を国に伝えるべきではないでしょうか?」
リヴィアンは暗にさっさと帰れと言った。
ハロルドは深く頭を下げた。
「本当に失礼をいたしました。急ぎ国に戻らせていただきます」
アリエルは金切り声をあげてドラゴンに掴みかかろうとしたが、ハロルドが拘束し他の使節団の元に連れていった。
ドラゴンは今後こんなことのないように、ドラゴニアのドラゴンに文字を教えるつもりのようだ。崇められるなら最低限の責任は果たせとご立腹だ。
ちなみにこの騒動、ドラゴニア聖国の上層部が聖女とその実家を失脚させる為、わざと他国で問題を起こさせたのだ。おそらく王同士では裏で話がついて居るのだろう。
しかしドラゴンが介入したために予想以上にドラゴニア聖国は利益を得てしまった。
リヴィアンは巻き込まれた迷惑料として何を要求してやろうかと考えていた。
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