65.ドラゴニア聖国
その日リル達はイアンに呼び出されていた。以前視察にやってきたエクス王国と国境を接する同盟国である、ドラゴニア聖国が視察にやってくるというのだ。
三国はいずれもレイズ王国と国境を接している。ウィルス王国が国境を接しているのはエクス王国とレイズ王国のみであるが、ドラゴニア聖国も同盟を結んでいる大切な国だ。
ドラゴニア聖国はウィルス王国と同じで神獣保護に努めているが、ウィルス王国とはその理由が異なる。ドラゴニア聖国はその名の通りドラゴンを崇拝している国なのだ。だからドラゴンが同胞扱いする神獣を保護し、崇拝している。リル達のように神獣やドラゴンをお友達扱いするのは許されないらしい。
そんな国がどうしてウィルス王国に視察に来るのか、それは愛し子を見たいためらしい。
なんでもドラゴンの意志によって今代選ばれた聖女が希望したのだとか。リルはなんとも思わなかったが、リアはものすごい形相で却下してくださいと言っている。みんなリアの態度に疑問を抱いた。
「あの常識を知らないわがまま娘をリルに会わせるなんてできません」
リアは必死にイアンに訴えた。イアンはリアにそこまで言われる聖女とはどんな子なのか気になった。
「私はレイズ王国の聖女だった頃にあの小娘に会ったことがあります。あれは聖女なんて器ではありません。ドラゴンに選ばれたために周囲にひたすらチヤホヤされて育ったわがまま娘です。会ったら最後どんな無理難題を言い出すか分かったもんじゃありません」
リアは本気でドラゴンに選ばれたという聖女が嫌いらしかった。
しかしこれは国からの要請だ。断ることなど出来はしない。
「なら誰か一人だけでも良いでしょう?私が行きます。リル達は会わずとも問題ないはずです」
確かに向こうの要望は愛し子との面会だ。一人でも問題は無い。リアならば相手がどんな子でも臆することは無いだろう。
「リアだけじゃ心配なので私も行きます」
アナスタシアが手を挙げて言う。結果リアとアナスタシアだけがドラゴニア聖国の聖女と会うことになった。
リルはその間お留守番だ。念の為ハルキに来てもらうことになった。
リルはいつにないリアの様子に心配していた。どんなおそろしい子が来るのだろうとドキドキした。なにか役に立ちたかったリルは鷹に頼んでドラゴンを呼んでもらった。
「ドラゴンさん、ドラゴニア聖国の聖女さんが来ている間、お姉ちゃんと一緒にいてあげて欲しいの」
リルの話を聞いたドラゴンはため息をついた。
『なるほど、アイツは面倒がって顔でしか聖女を選ばんからな……お前たちにまで迷惑がかかるようなら私からも注意しておこう。一先ず、その者が来る日はリアと共に居てやろう』
リルはホッとして、ドラゴンに感謝した。
ドラゴニア聖国の聖女がやってくる日、リアとアナスタシアは馬車に乗って王城に向かっていた。顔を隠す為のベールを着け、気合いを入れていた。リアの腕にはたぬたぬが、アナスタシアの腕には小さくなったドラゴンがいる。
ジャスティンはリアに質問する。
「そんなに酷いのか、ドラゴニア聖国の聖女って」
リアは憤懣遣る方無しという体で返す。
「あの女、私に会って第一声、なんて言ったと思う?レイズ王国の聖女というからどんなのかと思ったら、とんだブサイクじゃないって言ったのよ。そっちから聖女に会いたいって希望したくせによ。その一声で即時会談終了よ。それなのにそれが自分のせいだと分からないくらいには馬鹿なのよ」
ジャスティンは絶句した。そこまでだとは思っていなかったのだ。
「その聖女って今年で十五歳じゃなかったか?アナスタシアと同い年だろう?ドラゴニア聖国よりこっちの方が国力は上だ。流石にそこまでの暴言は吐かないだろう」
というより、恋愛感情など微塵もないジャスティンから見ても、リアはかなりの美少女だ。そのリアに対してブサイクと言える女はすごいと思う。
「あの女ならやるわ、絶対。聖国もドラゴンが選んだ聖女だから、彼女の要望は絶対だと思ってるのよ。もちろん正そうとしている人は居るけど、あの女は元々の身分も高いの。逆らうと実家がしゃしゃり出てくるのよ」
アナスタシアの腕の中にいたドラゴンが魔法でペンを浮かせて紙に文字を書いた。この魔法は精神力と魔力がゴリゴリと削られるため、リア達にはほとんど使えなかった。
『すまんな、アイツには今度から教養のある女を聖女に選ぶように言っておく』
ドラゴニア聖国のドラゴンはなんと教会に住んでいるのだという。
そして十年に一度高位貴族の令嬢が集められて聖女を選ばせるのだ。今回の聖女は七歳の時に選ばれずっとチヤホヤされてきた。
「ドラゴニア聖国のドラゴンさんは政治には興味が無いのに教会に住んでるんですか?」
『あいつはモノグサだからな。人間に世話をしてもらって崇められるのが楽でいいと考えているだけだ』
なんて傍迷惑なとジャスティンは思った。せめて聖女くらいちゃんと選んで欲しい。
「今日の目標はあの勘違い聖女を失脚させる事ですから、協力してくださいね。ドラゴンさん」
リアが見たことがないほど怒っている。ベールを取ったらきっと黒い笑みを浮かべているのだろう。
『それがこの国のためになるならば、協力するのもやぶさかではない』
ドラゴンの言葉にリアは安堵した。同盟国には真っ当な国であって欲しいものだ。小娘一人に振り回される国などと同盟を組んでいても仕方がない。
ブックマークや評価をして下さると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!