63.ヘクター改めハルキ
ヘクターは王城に着いてすぐ、秘密裏に国王や宰相達上層部と面会する事になった。レイズ王国の軍事力について、色々と聞きたいことがあるのだろう。
ヘクターは聞かれたことには全て答えた。国王は自分の作る魔道具をあてにして戦争の準備をしていたのだ。自分が消えれば戦争も起こらないと思っていた。
「それよりも注意しなければならない事があります」
ヘクターの言葉に上層部はまゆ根をよせた。
「レイズ王国の結界は五年以内に消えるでしょう。あれは元からそういう風に作られていた魔道具です。レイズ王国は精霊に見放されつつあるのです。恐らく守りの魔道具も全て動かなくなるでしょう」
それはあまりに衝撃的な言葉だった。本当の事なのかと問い詰められる。
「あれは弱き者と正しき者を守る魔道具なのです。精霊に疑心を抱かれた時点で効力が弱まり、やがて動かなくなって消えます。今回の活動期で魔物を通してしまったのはそのせいです」
昔の記録では精霊に見放された国が魔法も魔道具も使えなくなって滅びたとある。レイズ王国は今その道を歩んでいるのだ。
「私は政治には詳しくありませんが、緩やかに破滅へ向かうレイズ王国のその後の扱いを早めに考えた方が良いかと思います」
ヘクターの言葉は上層部を動かした。
長年目の上のタンコブだったレイズ王国を穏便に解体するチャンスなのだ。きっと国境を接する残り二つの同盟国も協力してくれるだろう。誰もがこの情報に歓喜した。
そしてヘクターの処遇だが、名前を変えてこの国の魔道具技師として働くことになった。
愛し子ということで『特別神獣保護隊』と国家魔道具技師の兼任である。
普段は王城内で暮らすことになるだろう。
新しい名前はハルキにした。呼ばれ慣れた前世の名前である。
ハルキは『特別神獣保護隊』のことで話をしてくれたリヴィアンに案内されて、これからお世話になる国家魔道具技師達に挨拶する。
魔道具技師たちには通過儀礼があるらしく、ハルキも参加させられた。
通過儀礼とは国宝である車の秘匿の魔法を解くことである。
この国の高名な魔法師の誰もが、この車に掛けられた魔法を解くことが出来なかった。
だから似たような車しか作る事が出来なかったのだ。出来た車は動きはするが、安全性に問題があった。新人はみな最高の技術によって作られた車をみて、魔道具技師としてより高みを目指すのだ。
ハルキは力業で秘匿の魔法を解くと中を見て感心した。この車にはセンサー機能まで搭載されていて、前方に生き物が居ると自動的に止まるようになっていた。その上自動操縦機能までついているのだ。これを作った転生者は余程車が好きだったのだろう。
驚いたのは魔道具技師達だ。今まで誰にも解くことが出来なかった秘匿の魔法をあっさり解いたということは、伝説の魔道具技師よりも魔法の腕が上だということだ。
リヴィアンは、賢者の再来との評価は嘘ではなかったのだと感激した。急いで王に車の魔法が解かれたことを報告する。
ハルキは車の内部チェックに夢中で事の重大さに気づいていなかった。
ハルキは長年魔道具技師達の頭を悩ませた車の秘匿魔法を解いた褒美を貰うことになった。
ハルキが要求したのはまさに自分が秘匿魔法を解いた車だった。
車を使えば拠点まですぐだ。休みの日にでもせっかく出会った転生者仲間に会いに行こうと思ったのだ。
国王は了承した。その代わり暫くは車の製作を任されるようだ。
後にこの車は廉価版が作られ各国にも広まることになる。
転生者があまり文明を破壊しすぎると精霊から警告がされるのだが、どうやら車はその範囲には無いようだった。
一方その頃リル達は、子供達の初めての水泳を応援していた。
浅瀬でおっかなびっくり手足を動かして泳ぐ銀狼は可愛いの一言だ。動物は人間の様に練習しなくても泳げると聞いていたが、まさにその通りで、子供達は次々に泳ぎを身につけた。
未だ泳げないリルは、何だか負けたような気持ちになった。早く泳げるようになろうと決意する。
リルはリアに手を引いて貰って必死にバタ足の練習をした。
どうにも運動が苦手なリルは中々上達しないが、リアは根気よく練習を手伝ってくれる。
たぬたぬは今日も流れに逆らって泳いでいて、琥珀とマロンはサボらないように監視していた。一応琥珀達もたぬたぬの太り過ぎを心配しているのだ。
アナスタシアはジャスティンと子供達の様子をみている。万が一にも溺れたりしないようにしなくてはならない。
神獣達も各々楽しそうに泳いでいるので、プールを作って良かったなとリアは思った。
こちらを完結まで書き上げたので、新連載始めました。
どうかもうしばらくお付き合い下さい。
ブックマークや評価をして下さると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!




