62.逃亡者
ヘイデンがレイズ王国に向かって数日後。小さい子たちの体重測定をしていると、森の中から二人の男性が銀狼に乗ってやってきた。
ジャスティンは何事かと思い厳戒態勢をとる。
「待って待って、俺だから、攻撃しないで」
「ヘイデンさん!?」
それは身体中に傷を負ったボロボロのヘイデンだった。もう一人の二十代後半くらいに見える男性も、どこか怪我をしている様子で、辺りをキョロキョロと見回している。
「ヘクター様……」
リアの呟きに彼は気づいたようでリアを見た。
「あれ?聖女ちゃん?死んだんじゃなかったんだ」
どうやらふたりは顔見知りらしい。
拠点から異常を聞き付けたイアンが顔を出すと、直ぐにヘイデンの治療を開始した。
「すいません団長。だいぶ追われて逃げ場がなくて、森を通り抜けるしか道がなかったんです。森に入ったら銀狼たちが協力して運んでくれました」
リアは腕輪を外してヘイデンの話を聞く。
「彼の名前はヘクター・フレミング。レイズ王国で賢者の再来と言われた魔道具技師です。この国に亡命したいと言うので連れてきました」
ヘクターは小さな神獣に囲まれて戸惑っているようだった。
イアンはその異常な光景に息を飲む。
「まさか愛し子か。嘘だろう」
「間違いなく愛し子だと思います」
リアが溜息をつきながら言う。前から彼のことは転生者ではないかと疑っていたのだ。彼はレイズ王国ではとにかく異端だった。
彼の発想で作られた魔道具は庶民向けのものが多かったが、その一つ一つに同じ転生者の影を感じていた。
「彼の口から事情を聞きたい。とりあえず中に入ろう」
リル達も転生者と知ったからか興味を持ってついてくる。イアンは止めようとしたが、リアが腕輪をチラつかせてアピールしてくるので、諦めた。団長室に移動すると、ヘクターの尋問が始まった。
「それで、どういう事情でこちらに亡命したいと?」
イアンが聞くとヘクターが一瞬リアを見てから語り始めた。
「私は魔道具技師です。レイズ王国では賢者の再来と呼ばれていました。王は私に大量殺戮兵器を作るように命じたんです。断ると拷問監禁され、作るまでは絶対に出さないと言われました。なので従うフリをしながら脱出経路を探していたのですが、そこでヘイデンさんに会って助けられてここに来ました」
リアが全部本当のことですとイアンに伝える。ジャスティンとアナスタシアはその言葉に驚いたが、口は挟まなかった。
「まさか聖女ちゃんがここにいるとは思わなかったよ。変に疑われなくて済むから助かるね」
ヘクターは苦笑しながら、お互い大変だったねとリアに言った。
「今の名前はリアです。聖女と呼ぶのはやめてください」
「了解、リアちゃんね。……あとそっちのそっくりな子は妹?アダムス家に二人も娘なんていたっけ?」
ヘクターは訝しみながら気になったことを聞く。
「リルは双子の妹です」
ヘクターは少し考えると、哀れんだような顔で言った。
「大変だったんだね……」
リアは頷く。察してくれて何よりである。
「とにかく、君に関しては上に確認をとろう。迎えが来るまでここに居てくれ。君の今後に関しては話し合いがなされるだろう」
イアンがヘクターに言うと、ヘクターは頭を下げた。
「ありがとうございます」
彼が愛し子な時点でこの国は彼を受け入れるだろう。その上凄腕の魔道具技師だ。この国が彼の亡命を拒む理由は無い。
イアンがヘクターの治療をすると、リルは待ってましたと言わんばかりに彼を庭に誘う。
神獣の子供達に会わせようと思ったのだ。
しかしリアがそれを止めた。二人で話したいことがあるという。
イアンは少し迷ったが、リアは戦える。剣も持っているし大丈夫だろうと許可した。
「どうした、リアちゃん?」
いきなり二人で話したいと言われたヘクターは面食らった。
「ヘクターさんは転生者ですよね?」
言われた瞬間ヘクターの動きが止まった。
「やっぱりリアちゃんも転生者か」
「そうです、そして転生者は他にもいます」
リアはドラゴンの言ったこと、そして転生者には無条件で神獣が懐くことを話した。
「なるほど、神様ねえ、あんまり信じてないんだけどな。実際転生なんてしちゃってる訳だし、信じない訳にはいかないか。世界を救う気なんて更々無いけど、心の片隅に置いておくよ」
ヘクターはとりあえず状況を受け入れることにしたらしい。リアもただ情報共有がしたかっただけなので、どう受け止められようが構わない。
「そうだ、後は私は転生者ではなく守護霊憑きということになっているので、出来れば合わせてください」
リルは話が終わったヘクターの手を引いて神獣達の元に向かう。背後ではジャスティンが目を光らせているが、リルは気にしていない。
神獣が無条件で懐くなら絶対優しい人なのだ。アナスタシアはちょっと警戒気味だが、リアの知り合いなら大丈夫かとも思っている。
「うっわー可愛いな、子供がいっぱいだ」
ヘクターは興味津々で近づいてくる神獣たちに囲まれ嬉しそうだ。
「なんでライオンとかいんの?気候合わなくないか?」
「この国がドラゴンと契約を交わした時に、国をまたいで移住して来たらしいですよ」
リアの返答にヘクターは感心した。
「そっか、他国じゃ神獣だろうと魔物だろうと関係なく殺すとこ多いもんな。よかったなーいい国で生まれて」
ヘクターは子ライオンをわしゃわしゃと撫でながら言った。最近ずっと殺伐として緊張していたので、ヘクターは癒されていた。
やがて迎えが来てヘクターは去ってゆく。彼の今後が気がかりだが、悪いようにはならないと言うのでリルは一旦別れを受け入れた。
今日で小説を書き始めてから丁度二ヶ月が経ちました。
ようやっとサイトの使い方にも慣れてきたところです。
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