61.ベビーラッシュ
その日は朝から神獣達が慌ただしかった。心なしか数も少ない気がする。リル達は首を傾げた。
「何かあったのか?」
ジャスティンが心配そうにしているが、リルにも理由はわからなかった。神獣達が教えてくれないのだ。
しかたがないので毎朝恒例の観察日記を書くことにしたリルだが、何だか神獣達がソワソワとして落ち着かないような気がする。一体何を隠しているのだろうか。
神獣たちの様子にヤキモキしながら観察日記を書いていると、ヘイデンが拠点を出ていこうとしていた。ヘイデンはリル達に声をかける。
「ちょっと仕事頼まれたんで暫く留守にするよ。レイズ王国に行ってくるからいい子にしてるんだぞ」
なぜヘイデンがレイズ王国に行くのだろう。リル達は不思議だった。
「ああ、俺『演技』のスキル持ちだから、たまに人手が足りない時に潜入捜査を頼まれるんだよな」
全員初耳だった。何で諜報員ではなく聖騎士をしているのか疑問だ。
「俺は『演技』のスキル持ちだけど演技が好きな訳では無いからな。諜報部は荷が重くてさ。聖騎士試験を受けて聖騎士になったんだよ。でもたまに国から声がかかるわけ」
なるほど、才能と望みが一致しない人は多く居るだろう。ヘイデンもその一人だったわけだ。
「という訳で、嫌な仕事はすぐ終わらせて帰ってくるから。俺の事忘れるなよ?」
ヘイデンはそう言ってリル達の頭を撫で回す。一通り撫でて満足すると拠点を去っていった。
リルはヘイデンが心配だったが、お仕事なら仕方がない。早く帰ってきてくれることを祈った。
朝食の時間も、リルは神獣達が気になってソワソワしていた。
神獣達がリルに隠し事をすることなんて今まで無かったのである。リア達も心配していた。
リルは早々に朝食を終えるとみんなで神獣達の所へ向かう。
するとそこには予想外の光景が広がっていた。
ひんやりスポットでくつろいでいたのは、小さな神獣達だったのである。
『えへへ、可愛いでしょ』
『お披露目だよー』
神獣達が集まってきて口々に説明してくれる。
新しく生まれた子供達がやっと人と触れ合えるくらいの大きさになったので、今日はお披露目式のようだ。
リスとタヌキとキツネとイノシシとシカ、ライオンに銀狼もいる。
アナスタシアが慌てて体重計を取りに行った。
リルは可愛すぎて言葉が出ない。
リアもジャスティンも感動していた。
銀狼の子供は特に小さい。シカなどは少し育っているがそれでも小さくて可愛かった。
神獣の子供たちは不思議そうな顔でリル達を見ている。みんな人間を見るのは初めてなのだろう。親が落ち着いているから子供達も落ち着いているようだ。
アナスタシアが体重計を持ってきたので、触れ合い兼健康診断が始まった。
「私、動物の子供の体重測定をするのが一番好きなの。毎日少しずつ大きくなるのが分かるから」
アナスタシアがウリ坊を体重計に乗せてあげながら言う。ウリ坊はこれはなに?と不思議そうだ。
リルも観察日記を書きながら子供達と戯れていた。まだ力加減が苦手な子もいるから多少怪我をしたが、じゃれている子供達が可愛いのでなんの問題もない。
リアは体重を記録しながら子供たちの可愛さに悶絶していた。後で絶対お菓子をあげようと、クッキーの残量を思い出す。
ジャスティンは多少警戒されているようであまり近づけなかったが、見ているだけで可愛らしいのだ。とにかく眼福だった。
体重測定も終わりリアが神獣用のクッキーを持ってくると、子供たちはおいしそうな匂いに興味津々だった。
みんなで一枚ずつ口元に持って行って食べさせてやる。小さなリスには小さく割ったクッキーをあげると喜んでいた。
リスはきっとすぐに大きくなってしまうが、銀狼達はまだ暫く子供の期間が続くだろう。タヌキやキツネもたしか成獣になるのが早いはずだ。今しか見られない光景を堪能しておこうとリルはスケッチブックに夢中で絵を書いた。
リル達が満足しているのを見て神獣たちは得意気だ。
子供たちはしばらくこの拠点付近で育てることにしたのだと教えてくれた。
毎日この可愛い子達が見られるのは本当に嬉しいことだ。
活動期に多くの神獣が亡くなってしまったが、新しい命が生まれたのは素敵なことである。
リルはこの子達が幸せに大きくなってくれることを願った。
ライオンの子が銀狼の子とじゃれあっている。タヌキやキツネはヒンヤリスポットでウトウトしている。ウリ坊はまだクッキーが食べたいらしくリアに突進していた。シカとリスは興味深そうにジャスティンとアナスタシアとにらめっこしていた。
この平和な光景がずっと続けばいいとリルは思った。
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