60.レイズ王国
本格的に暑くなってきた夏の日。
あったかスポットも今はひんやりスポットとして稼働していて、神獣たちが思い思いに寛いでいた。
先日新しく作ったプールは大人気で、リルは今日も神獣達と一緒に遊んでいた。ウォータースライダーからキツネを抱えて滑り降りると、リルは見慣れた人影があることに気づく。
「リヴィおじさん!マーリン!」
リヴィアンは呆然とプールと三輪車で遊ぶ神獣たちを眺めていたが、呼ばれて我に返ったようでリルに挨拶した。
「やあ、リル。またすごいものを作ったね」
琥珀やリア達もプールからあがりリヴィアンを出迎える。リヴィアンは楽しそうだなと思ったが、今日は仕事で来たのだ。流石に水遊びしている時間は無い。
「あの車は面白いね。魔力を流すと前進するのかい?」
リル達は最近魔道具作りにハマっているのだと、作ったものの説明をした。リヴィアンは三人の能力の高さに驚かされるばかりだ。三人とも魔法は得意だと聞いていたが、国勤めの魔道具技師にもなれるかもしれない。
リヴィアンは一通り話をするとイアンの元に向かった。
「どうしたんですか?兄上」
団長室でイアンとルイスに出迎えられると、疲れた顔で話し出す。
「レイズ王国がきな臭い」
「……あの国ですか」
イアンはため息をついた。
レイズ王国は拠点の森を超えた先にある隣国だ。リル達の故郷でもある。
あの国は活動期で大きな被害を受けた。それなのに民に何の補償もせず、貴族は王都でぬくぬくとしていたと聞く。今この国にはレイズ王国からの難民が押し寄せていた。しかし全てを受け入れる訳にはいかずに追い返しているのが現状である。
「レイズ王国は武器を集めているらしい。結界の中にずっと引きこもっていた癖にどういう風の吹き回しなんだか」
レイズ王国を覆う巨大な結界は、魔物を一切通さない。数百年前に賢者と呼ばれた若者が作ったその結界は強固に国を守っている。その為レイズ王国の騎士たちは魔物と戦った経験が無いものばかりだ。その上畜産業が盛んなため、魔物を狩らなくても食料には困らない。
今回の活動期では、結界の中に魔物が湧くという今まで無かったことが起こったために甚大な被害が出たのだ。レイズ王国はその時点で民を救援してやるべきだった。だがそれを怠った。そのため難民が溢れたのだ。
「戦争より先に民の補償でしょうに、というかレイズ王国はどの周辺国と戦っても勝てないでしょう」
イアンは呆れた口調で言った。
軍の練度が違いすぎるのだ。レイズ王国以外の国は常に魔物の被害に晒されている。だから戦う機会が多い。民ですら小型の魔物を一人で倒せたりするのだ。レイズ王国は、数種類の賢者の魔道具のお陰で難攻不落と言えるほど守りには長けているが、攻撃はまるで駄目だった。
「わからないよ、どこかの国がレイズ王国に味方するかもしれない」
「この活動期が終わったばかりの時期にですか?どの国も疲弊していて余力なんてないでしょう」
イアンの言う通りだった。レイズ王国には何か勝算があるのか、それともただの馬鹿なのか。どう受け取ればいいのか分からず困惑する。レイズ王国は外交を好まないため、味方する国があるとも思えない。
「まあ何にせよ、ここはレイズ王国に近い。森に難民や野盗が入り込む可能性もあるし、気をつけてくれ。見回りを強化するように」
イアンは頷いた。たしかに最近野盗や密猟者が増えているのだ。
レイズ王国のことは置いておいても、見回りの強化は必要だった。
幸いこの国はリルと神獣達のおかげで余力がある。レイズ王国のことはそこまで心配しなくても大丈夫だろう。
イアンと別れたリヴィアンは、もう一度リル達のところに戻った。
そこではリル達がアイスクリームを食べていた。
リヴィアンもアイスクリームを分けてもらって座って食べる。
ふと、リヴィアンは思う。リル達は故郷のことをどう思っているのだろうか、戦争になるかもしれないと知ったら悲しむだろうか。
考え込んでいるとリアが話しかけてきた。
「なにか大変なことがあったんですか?」
気がついたらみんなリヴィアンを見ていた。心配をかけてしまったようだ。少し迷った末、リヴィアンは話をしてみることにした。
「レイズ王国が武器を集めているようなんだ」
リル達はただ驚いた顔をしていたが、リアはまゆ根を寄せて考え込んでいた。
「それ、ちょっと注意した方がいいかもしれません」
リアはそう口にする。
「レイズ王国には賢者の再来と言われている魔道具技師がいるんです。彼自身は温厚で兵器は絶対に作らないと公言していますが、王は兵器を作らせたかったようです。もしかしたら……」
リアは暫く国王の傍で過ごした。国の機密も多少知っているのだろう。しかしそれだと不味いことになるかもしれない。
リヴィアンは早急にレイズ王国の情報を集めることにした。
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