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6.お父さん

 リルが家族ができた喜びを噛み締めていると、リヴィアンが言った。

「ちょっと弟とお話ししたいから、ルイスたちの所に行っていてくれるかい?」

 

 リルは頷くとルイスの元に向かった。この喜びを誰かに伝えたかったリルは、バタバタと廊下を走っていった。

 イアンは裸足で駆けて行ったリルが外に出ないか心配だったが、リヴィアンと話をしなければならない。怪我をしないようにと祈るしか無かった。


「リル、いい子だね。それに賢い。地下に閉じ込められていたとは思えないよ」

 リヴィアンは手を付けずにいたお茶を飲むと切り出した。

「おそらく守護霊のお陰でしょう。力はありませんが、よく話しかけてくれる守護霊のようです」

「守護霊がいてくれて良かったね。そうじゃないと心が壊れていたかもしれない」

 二人はしみじみ思った。実際リルの心を守っていたのは、前世の『みちるちゃん』の記憶なのだからそれは正しい。守護霊では無いというだけだった。


「リルの双子の姉はレイズ王国の聖女に選ばれたと言っていたね。調べたらどうやら本当のようだ。リルは生まれた家の名前を知らなかったから、調べるのは苦労したよ。隣国の聖女は銀髪で青い目のミレイユ・アダムス侯爵令嬢だ」

 リルが侯爵家の生まれだと知ってイアンは驚いた。それほど家格の高い家ならもっとまともな扱いができなかったのかと憤慨する。


「イアンは隣国の聖女の選定基準を知っているかい?国に役立つスキルを持った身分の高い令嬢だそうだよ。聖女のスキルは『真実の目』嘘を見抜くスキルだ」

 姉妹揃ってとんでもないスキルを持っている。姉のスキルが有用だったからこそ、リルは要らないとされたのだろうとイアンは複雑な気持ちになった。

「恐らくリルは一卵性双生児だろう。あまり人目に晒さない方がいい。隣国の聖女と同じ顔だとバレたら問題だ。王宮へは連れていかない方がいいと思って、僕がここに来たんだ」

 

 イアンは兄の機転に感謝した。おそらく最初から、どうあってもリルをイアンの養子にするつもりだったのだろう。イアンの養子で『通訳者』なら、ここに住まわせても違和感は無い。

「聖女のことはもう少し調べてみるよ。可能なら顔を確かめてくる。二卵生双生児なら表に出しても問題は無いからね」

 リヴィアンは優秀だった。連絡を貰ってすぐにここまで調べあげ、最善の選択をしたのだ。


「助かります、兄上。俺はここでリルを守ります」

「まったく、社交も結婚も投げ出して逃げるように聖騎士になったんだから、それくらいの働きはしてもらわないと。今日からパパなんだからね、ちゃんとわかってる?」

 イアンは不安そうな顔をしている。リヴィアンはそんな弟を見て笑った。

「まあ、ゆっくり慣れていけばいいさ、時間はたっぷりあるんだから」


 

 

 一方リルはルイスとマーリンに『リル・ウィルソン』となった事を報告していた。家族ができたのだと嬉しそうにはしゃぐその姿に二匹は一緒に喜んだ。

『王家の子になるならリルにも守役が必要かしら?』

 マーリンがそう言うが、リルにはよく分からなかった。

『守役は我々銀狼族と初代国王との盟約だ。王家に子が産まれると、銀狼族から守役がつけられるのだ』

 

 ルイスの説明はとてもわかりやすかった。本来は王にならない第三王子の子には守役はつけられないが、リルは特別だ。マーリンは族長に相談して守役をつけた方がいいと思っていた。

「私も狼さんと一緒に居られるの?」

 リルは嬉しそうだ。早速族長に相談しようとマーリンは決めた。

 

 ルイスとマーリンの間に挟まって、毛並みを撫でながら楽しくおしゃべりしていると。イアンとリヴィアンがやってきた。どうやらお話は終わったらしいとリルは駆けてゆく。イアンの足に飛びつくと嬉しそうに笑った。イアンはリルを抱き上げる。

「ルイスたちとお話ししてたのか?」

「はい!守役について教えてもらいました!」

 リルは元気一杯に答える。

「リル、もうイアンはパパなんだから敬語は要らないと思うよ」

 確かに『みちるちゃん』の記憶では家族に敬語なんて使っていない。リルは伺うようにイアンを見た。

「そうだな、普通に話してくれていいぞ」

 リルは嬉しかった。だから満面の笑みで答えた。

「うん、お父さん!」

 イアンは心臓を撃ち抜かれるような思いだった。リヴィアンはそんな二人を見て、思っていたより上手くやっていけそうだと安堵する。

 

 

 

「じゃあリル、伯父さんは帰るよ。あ、今度からはリヴィ伯父さんって呼んでくれていいからね」

 リヴィアンは名残惜しそうに帰っていく。

「バイバイ!リヴィ伯父さん、マーリン」

 リルはふたりが見えなくなるまで手を振り続けた。

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