59.流れるプール
三輪車を作ってから数日。やっと流れるプール制作の許可が下りた。メイナードの必死の説得とリルのお願いのおかげである。
そのかわり小さいものにしろと厳命されている。
リル達は一生懸命設計図を書いた。円形の流れるプールにウォータースライダーを取り付けたものだ。冬には温水が出るようにしようと思っている。
リルは『みちるちゃん』時代もプールに入ったことがなかった。だからずっと憧れていたのだ。
リルは最近『みちるちゃん』の記憶について語っても『みちるちゃん』がこう言ったとは言わなくなった。リアはそれがとても嬉しかった。『みちるちゃん』が死者である事を、リルは自然と受け入れられるようになってきたのだろう。リルの中に『みちるちゃん』の面影を見つける度に、リアはずっとヤキモキしていたのだ。
念願のプールにはしゃぐリルに、最高のプールにしようとリアは気合いをいれた。自作する予定の水が流れるようにする魔道具と、既に存在する温度調整できる水を生み出す魔道具を掛け合わせて、細かなところまで綿密な計画を立てた。
メイナードもリアの熱意に押されて協力してくれた。水を浄化できる魔道具もあると聞いて、それを組み込むにはどうすればいいか必死で考えた。
アナスタシアも、神獣たちが喜ぶ様な仕組みを考えてくれて、最高の設計図になった。
メイナードとグロリアが協力してくれてプールの建設が始まる。
神獣たちは興味津々で見学していた。
まずは魔法で穴を掘る。そしてプールの外壁となる防水性の高い素材を埋め込んだ。円形のプールは外側が浅く、内側が深い作りになる。二重の円形のプールに真ん中はスライダーだ。
そして頑張って作った水を流れさせる魔道具を組込む。流れた先には水を浄化する魔道具を置いて、綺麗な水が循環するようにした。
スライダーは小さな神獣たちも登れるように階段を低くしてみんなが遊べるようにする。
魔法をフル活用しての建築はあっという間だった。
「メイナードさんはどうして大工にならなかったんですか?」
アナスタシアは疑問だった。これだけの腕があるなら大工で十分食べていけるはずだ。
「次男だったからな、家は兄が継ぐから僕はなんとなく騎士になろうと思って」
そんな単純な理由だったのかとアナスタシアは笑ってしまった。
なんとなくで難関である聖騎士試験に合格できるメイナードは只者ではない。
元々天才肌なのだろう。
グロリアは魔力を完全に使いはたして休んでいた。貴重な『魔法師』の魔法を建築に使うのはメイナードくらいだろう。本来『魔法師』は国で保護されるくらいの重要人物なのである。
その上グロリアは王族の血が入っている。本来こんな指示に従う理由は無い。グロリア自身もこの拠点の開拓を楽しんでいるのだ。
出来上がったプールに水を流すと、神獣たちがプールに飛び込んだ。
琥珀はマロンを頭に乗せたまま器用に泳いでいる。流れに身を任せる子もいれば逆らって泳ぐ子もいた。
浮き輪の代わりにイカダをいくつか流してやる。浮島ができると、乗ってゆったりと流れを楽しむ子もいた。
リルはテレビで見たレジャー施設そのままの光景にワクワクした。前世では病のせいで叶わなかった夢が叶うのだ。
リル達は水に入れる服に着替えて、プールに飛び込んだ。
リルは泳げないので浅瀬で神獣たちと水を掛け合う。琥珀が心配してこちらに来てくれた。
リアはたぬたぬが泳ぐところを見て少し安心した。太りすぎて沈んでしまったらどうしようと思っていたのだ。むしろ脂肪分が多いから上手く浮けているのかもしれない。
「泳ぎはダイエットに良いんだっけ」
リアがそう零すと、たぬたぬは流れに逆らって頑張って泳ぎ出した。
『うおおおお、痩せるぞー』
琥珀とマロンは呆れてため息をついた。
『どうせ運動した以上に食べるんでしょう』
『痩せるビジョンが全く見えないね』
リルは二人の会話に吹き出してしまった。たぬたぬが痩せられるよう応援する。
「頑張れ!たぬたぬ」
「沢山運動したらご褒美あげるよー」
リアも応援に参加するが、応援の仕方が間違っている。
琥珀達は呆れきった顔で首を振った。
『ダイエットはやっぱり無理ね』
「もうリア、たぬたぬにお菓子あげ過ぎないでって言ってるのに」
アナスタシアは何度注意してもお菓子をあげてしまうリアに怒っている。アナスタシアは神獣の健康に、誰より気を使っているのだ。
その後は見廻りから帰ってきた騎士たちも交えてプールを満喫した。
イアン達はウォータースライダーなど知らなかったので、子供の発想力は凄いなと感心していた。何だかんだで大人組も楽しく日が暮れるまで遊ぶ。
拠点の前庭は最早テーマパークのようになっていたが、イアンはもう諦めることにした。神獣と子供たちがあんなに楽しそうにしているのだ。後で予算の使い方で兄に叱られるかもしれないが、甘んじて受けようとため息をついた。
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