58.魔道具の作り方
「ねえ、ジェイ兄は魔道具の作り方って知ってる?」
祖父母がやってきた次の日、リアがジャスティンに聞いた。
「俺はあんまり詳しくないぞ。知ってるのは精霊石に精霊文字を刻み込むって事くらいだ」
ジャスティンは魔法は苦手だった。
魔法は想像力が最も重要だ。精霊に明確なイメージを伝えられないと発動しないのだ。だから簡単に使える人の方が珍しい。この国の半数以上が精々火を消すくらいしか出来ないだろう。
「そっか、詳しいのはやっぱりグロリアさんかな?」
リアはグロリアに聞いてみることにした。
「なにか作りたいものがあるの?」
リルの質問に、リアはたぬたぬを見ながら答える。
「昨日の車を見て面白そうだなと思って。神獣にオモチャの車作ってあげられたらいいよね」
確かにみんな楽しそうだった。リルも魔道具に興味が湧いた。
「私も手伝うよ。魔法は結構得意だから」
アナスタシアも魔道具制作には以前から興味があった。作れるようになったら絶対楽しいだろうと思う。
みんなでグロリアのところに向かいながら、作りたい魔道具の話をする。次々に挙げられる夢のような魔道具にジャスティンは感心した。
「魔道具を作りたいのですか?ちょっと待ってくださいね」
グロリアに相談すると、何やら石版を持ってきた。
「これは精霊石です。魔道具はこの精霊石に精霊言語で文字を刻んで作ります。精霊言語は魔法を使う時に精霊石を持っていると見ることが出来ますよ」
そう言うと、石版を持ってコップに水を出した。石版には光の文字が浮き上がった。
「つまり魔道具を作るには、事前に魔法を完成させる必要があるんです。今浮き上がった文字を、魔力を込めるだけで発動できるように精霊石に刻むのですよ。魔法が複雑になればなるほど文字数が増えるので、最初は簡単な物からやってみるのがいいですね」
グロリアは暖房の魔道具から石版を取り出した。なるほど確かに文字が刻まれている。
「この暖房の場合は魔力を込めた時に発動するのではなく、魔力を込めた魔石から常時魔力を供給させることで温かさが継続するようになっています」
グロリアは本棚から本を取ると、リル達に見せてくれた。
「この本にはよく使う精霊言語のテンプレートが載っています。これが魔石から魔力を供給したい時に使う精霊言語ですね。温める魔法の精霊言語と一緒に刻み込むのですよ」
リアはなんだかプログラムみたいだなと思った。
「石版に刻み込むだけなら、どうして車の量産が出来ないんですか?」
「多くの魔道具技師は精霊石に秘匿の魔法をかけます。技術が盗まれないようにするためです。秘匿の魔法は優秀な魔法使いなら解くことも出来ますが、あの車にかけられた魔法はちょっと特殊なようで……今まで誰にも解けなかったのです」
間違いなく転生チートで作られた魔道具だなとリア達は思った。百年前の転生者が車を作って、誰にも同じものを作れないようにしたのだろう。
グロリアから本を借りて、リル達は魔道具の車を作ってみることにした。
まずメイナードの所へ行って三輪車のような車を作ってもらう。
「なるほど、後輪はそのままに前輪だけ左右に動かせるようにして方向転換するのか」
メイナードはリル達の作った設計図を見て感心した。神獣たちが乗るからと乗る部分は箱のような形状になっている。荷車に車輪とハンドルが付いたような形だ。
メイナードは材料が届いてから一日で完成させてくれた。
リル達は魔法で三輪車を前進させてみた。この魔法を精霊言語化して精霊石に刻み込むのだ。
一定の速度しか出ない上に前進することしか出来ないが、初心者にはそれが精一杯である。
調子に乗ってスピード調整機能をつけようとしたらことごとく失敗してしまった。
精霊石に言語を彫るのはなかなか大変だった。少しでも間違うと魔法は発動しないのだ。
そして出来上がった石版を三輪車に組み込む。魔力を流すと、流している間だけ前進する。
成功したと、三人は飛び上がって喜んだ。
出来上がった三輪車を神獣たちにプレゼントすると、彼らは喜んで遊び出す。最初は操縦が難しそうだったが、慣れたらスムーズに動かせるようになった。
『これ楽しい!もっと乗りたい!』
『もっと速く走れるといいな』
三輪車は一台しかないので、神獣たちが行列になっている。
「もう何台か作ろうか」
アナスタシアは苦笑しながらメイナードに増産を依頼しに行く。
メイナードの所へ行くと、既に五台ほど三輪車が完成していた。
「絶対足りないと思ったから作っておいたよ」
アナスタシアは笑ってしまった。すぐに精霊石を作らなければ。
三人と、見かねて手伝ってくれたジャスティンが急ピッチで石版を完成させる。
三輪車に組み込むと神獣たちの所へ急いだ。
みんな大喜びで三輪車で遊んでいる。
様子を見に来たグロリアとメイナードが、魔道具の出来をほめてくれた。
「三人とも魔法の才能がありますね。まさかこんなに早く完成させられるとは思いませんでした」
「こんなにスムーズに動くとは思わなかったな。組み込んだ魔法がしっかりしてたんだろうね」
遊んでいる神獣たちを眺めながら、みんなで次の魔道具を何にするか話し合う。
すっかり魔道具制作にハマってしまったのだ。メイナードも協力してくれると言っている。
夏に向けて流れるプールを作るのはどうだろうとリルが言うと、メイナードは嬉々としてイアンに許可をとりに行くのだった。
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