57.おじいちゃんとおばあちゃん
今日は前国王と前王妃様。つまりリルのおじいちゃんとおばあちゃんが拠点に遊びに来る日である。
因みにリルが風邪をひいてから一週間程度しか経っていない。
二人は早く孫に会いたくて仕方なかったようだ。
リル達が拠点の前庭で神獣たちと戯れながら待っていると、一台の車が拠点前の坂を登ってきた。
リル達は目に入ったものが信じられなかった。だって車だ。馬車では無い。
前世でよく乗った自動車だったのだから。
『何あれかっこいいー』
神獣たちは大はしゃぎである。
そして自動車の中から人が降りてくる。老齢の男女と騎士が数名だ。前王の守役である銀狼も降りてくる。ちなみに自動車の周りにも馬に乗った騎士が並走していた。
転生者には面白い情景だろう。
リル達はあっけにとられていた。
「父上、母上、なんてものに乗ってきたんですか」
イアンが呆れ顔で両親に言う。
「なに、可愛い孫たちに国の宝を見せてやろうと思ってな」
どうやらこの自動車は国の宝らしい。なにがどうしてそうなったのか、リル達は不思議だった。
イアンはリル達に手招きする。素直に従ってイアンの隣に並ぶと、挨拶をした。
「聞いていた通り礼儀正しい子達じゃな。私はナイジェル・ウィルソン。隣は妻のモウリンだ。気軽におじいちゃんおばあちゃんと呼んでくれ。そしてこの子はサイモン、私の守役じゃ」
リアは意を決して聞いてみた。
「あの車はなんですか、おじいちゃん」
ナイジェルはおじいちゃんと言う響きに感動していた。娘が居ない上に息子の子も尽く男しか生まれなかったのだ。二人はずっと女の子が欲しかった。
「あの車はな、百年ほど前、国一番の魔道具技師が作ったものじゃ。機構が複雑すぎてどんな魔道具技師も完全再現できない。この国に三台しかない宝だ。乗ってみるか?」
そう言うとナイジェルは車の天井を開閉した。まさかのオープンカーである。
神獣達は興味津々で車の周りに集まっている。
「神獣達を乗せてもいいですか?」
「もちろん構わんよ一緒に乗るといい」
それを聞いた神獣達は大喜びだ。次々に車に飛び乗ってゆく。開閉させた屋根から顔を乗り出して大はしゃぎしている。
リル達も乗ると、騎士の一人が車を走らせてくれた。
乗ってみた感想は前世の車そのままだった。しかし神獣たちが気に入っているので全てよしだ。今度神獣たちのための乗り物を作ってやるのもいいかもしれない。
「本当に神獣が懐いているのね。こんな光景滅多に見られないわ」
モウリンが感心してリル達を見つめている。
「それよりもよ、お土産をいっぱい持ってきたのよ。リルちゃん達が車を楽しんだら開けましょう」
イアンは嫌な予感がしていた。どことなく騎士の荷物が多いような気がする。まさか山のような贈り物を用意していないだろうかと母を見る。
「大丈夫よ、遠慮すると思って少なめにしておいたから」
祖父母の孫への贈り物ほど信用ならないものは無いだろう。きっと大量だ、イアンはため息をついた。
車を存分に堪能して拠点の中に入ると、モウリンはアナスタシアに言った。
「貴女はイアンの養子にならないの?」
アナスタシアは驚いたが、自分の考えを話す。
「私は今年十五歳で成人するので、保護者はいらないと思っています。『特別神獣保護隊』に在籍していれば国が守ってくれますし、何より私のスキルは珍しい物でも無いので王族の養子は荷が重いです」
モウリンは残念そうだった。
「愛し子なのだから、王族の仲間入りしても文句を言うやつなんて居ないわよ。ちょっと考えてみたら?私も孫が増えるのは嬉しいわ」
アナスタシアは聞きなれない呼称に首を傾げた。
「愛し子とはなんですか?」
「あら、あなた達のように神獣に無条件で好かれる人間をそう呼ぶことにしたのよ。知らなかった?」
完全に寝耳に水な話であった。まあ、呼称は必要だろうがなんだか気恥ずかしい呼ばれ方である。
アナスタシアは、リルとリアの姉妹になれるというのは魅力的だが、養子になることはあまり考えられないでいた。
「まあ、なりたくなったらいつでも言ってくれ。一人くらい子供が増えても俺は気にしないからな」
イアンはアナスタシアの頭を撫でる。アナスタシアは少し真剣に考えてみることにした。
二人の持ってきた孫へのプレゼントは案の定大量だった。
いやリル達だけでは無い、アナスタシアや神獣達への土産もあったのだ。
「蒼月の花をくれた子は何処にいる?」
ナイジェルはマロンに一番礼を言いたかった。彼が花弁を分けてくれたおかげで病の苦しみから解放されたのだ。
リルの肩の上に乗っているマロンを見つけると。マロンの小さな手をとって礼を言った。マロンには高級なふかふかクッションと沢山のチーズが用意されていた。マロンは大喜びだ。
リル達にはお揃いの服やアクセサリーが沢山だ。子供服のブランドらしく、少し大きくなっても大丈夫なようにサイズ調整が出来るようになっていた。リアはカッコイイ男の子向けの服を貰って上機嫌だ。事前にスカートが苦手なことが伝わっていたらしい。
アナスタシアはひたすら恐縮していたが、モウリンの熱意に負けて受け取ることにしたようだ。
「本当にみんな可愛いわ。もう女の子は諦めていたのにこんな可愛い孫ができるなんて、一緒にお城で暮らせたらどれほどいいかしら」
モウリンは完全にリル達を気に入ったらしく、終始はしゃいでいた。
「引退したのですから何時でも来たらいいでしょう。そう遠くはありませんし」
イアンは苦笑しながらプレゼントの包みを片付けている。
「そうよね、今後頻繁に来ることにするわ」
リルはその言葉に喜んだ。父だけでは無い、優しい祖父母もできたのだ。家族が増えるのは本当に嬉しいことだとリルは思っている。
「お手紙を書いたら読んでくれますか?」
リルが言うと、モウリンはもちろんと嬉しそうにしていた。リルの頭を撫でてなんて可愛いのかしらとご機嫌だ。
夕方まで孫娘たちとの時間を堪能して、二人は帰っていった。
あの車はものすごく目立つのではないかと、リルはなんだか心配だった。
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