55.風邪
メリーが帰った次の日の朝、リルは中々起きられないでいた。
『リル、もう朝よ、起きて』
琥珀が何度呼びかけても起きない、そこでマロンが異常に気づいた。
『熱があるんじゃないか?大丈夫か!リル!』
リルは唸るばかりで返事を返さない。
琥珀は慌ててイアンを呼びに行った。
イアンが琥珀と、事情を聞いたルイスに引っ張られて部屋に入ると、苦しそうにしているリルが居た。
イアンは慌てて自分の『治癒』のスキルを使う。しかしイアンのスキルは病には効果が薄かった。
それでも苦しさが和らいだのかリルは少し目を開けた。
「すぐに薬を持ってくるからな」
そう言うとイアンは解熱剤を取りに行く。そして何とか薬を飲ませると、リルは再び深い眠りについた。
「昨日の一件で疲れてしまったのか」
イアンは騎士たちにリルの体調不良を伝えると、馬に乗って医者を呼びに向かった。
リルの体調不良を聞いた騎士たちは念の為リアとアナスタシアの体調も確認していた。二人に異常はなさそうだった。
ヘイデンは二人にリルの部屋に近づかないように言うと、ロザリンにリルの世話を任せて仕事に戻る。
リアとアナスタシアはリルの様子を見たかったが、仕方なく毎朝恒例の神獣たちの確認に向かうことにした。リルがいないと話ができないので、あまり意味は無いのだが神獣たちにもリルの不調を知らせなければならないだろう。
神獣たちにリルの不調を知らせると、神獣たちは顔を突き合わせてなにか話しているようだった。言葉が分からないのはもどかしい。
きっと心配しているのだろうとあたりをつけて、医者を呼んでいるから心配するなと伝えておく。
神獣たちは少しすると、森へ帰ってしまった。
アナスタシアとリアとジャスティンは、初めて神獣が一匹もいない前庭を見たのだった。
「うーんどうしよう。神獣たち、大丈夫かな。なにか無理をしないといいけど」
今まで神獣たちはリルが居なかろうが前庭で遊んでいたのだ。リルが居ないから森に帰った訳では無いはずだ。
「獲物でも狩ってくるつもりかな?」
それが一番ありそうだとアナスタシアは思った。
たぬたぬだけはリアの腕の中に残って、なにか訴えかけているのだが、リアには何が言いたいのか分からない。
「起きたらいつでも食べられるように、栄養たっぷりのスープでも作ろうかな」
リアの言葉にアナスタシアは賛成する。二人はジャスティンを伴って厨房へ向かった。
イアンは医者を連れてくると、リルを診せる。医者が言うにはただの風邪のようだ。医者が『治癒』のスキルを使うとリルの顔色が良くなった。
「完全に治すことはできませんでしたが、明日には熱も下がるでしょう。薬を出しておきますね」
イアンはホッとした。医者を街まで送っていくと、その足でリルの好きなリンゴを買って帰る。リンゴを摩り下ろしてやれば食欲が無くても食べられるだろう。
リアたちが同じようなことを考えて、スープを作っているのをイアンは知らなかった。
帰ってからリルの部屋を覗くと、琥珀がリルを見守っていた。
「あれ?マロンはどうしたんだ?」
イアンは琥珀の姿しかないことを不思議に思った。
琥珀がなにやら鳴いているが、リルがいないと言葉が分からない。
マロンのことだからリルの為に動いているのだろう。そう考えてイアンは一先ず帰ってくるのを待つことにした。
厨房に行くと美味しそうな匂いがする。考えることはみんな同じだなと、イアンはリアたちに話しかけた。
「リルにスープを作っていたのか?」
リアはイアンの手にリンゴがあるのを見て笑った。
「そうだよ。お父さんはリンゴ買ってきてくれたの?リルが喜ぶよ」
リアの手元には細かく切られた大量の野菜があった。これを全部煮込むつもりらしい。豪華で栄養がありそうなスープだ。
「そういえばお父さん、神獣達がどこかに行っちゃったの。後で何か持ってくるかもしれないよ」
イアンはそういえば帰ってきた時神獣がいなかったなと思い出す。
「たくさん獲物を狩って来たりしてな」
何となく言った言葉だが、ありそうだと思ってしまった。
しかし神獣たちが持ってきたものはイアン達の予想を遥かに超えていたのである。
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