54.メリー
その後視察団の面々は、拠点の各所を視察して回った。今まで視察した場所とはまた何もかも違った神獣のことを考えられた造りに、ブレンダンは愛し子の力の大きさを知る。
ちなみに愛し子とは、リヴィアンが考えた神獣に無条件に好かれる者の呼称だ。事実として神獣に愛される子達なのだからこれが最適な呼び名だと思っている。
ブレンダンはあったかスポットに自国の魔道具が使われていることを知ると大層喜んだ。エクス王国は技術大国なのである。こと魔道具制作に関しては最先端をいっていると自負している国だ。職人を手厚く保護し、育成に力を入れているのである。特に生活に役立つ魔道具を多く作っている。
リアは色々質問したい衝動に駆られたが、我慢した。子供だから何を聞いても国際問題に発展することは無いだろうが、あまり興味があると悟られるのもこの国が困るだろう。リアはウィルス王国を気に入っている。あまり不利益になるようなことはしたくなかった。
アスレチックを視察したブレンダンは、これなら自国でも作れそうだと喜んだ。実際この国の他の拠点でもアスレチックの建設は予定されているのでどんなアスレチックにするかで話が弾んでいた。
大人たちとは別に、子供たちは自由に遊びながら前庭を駆け回っていた。神獣は大人達にはあまり近づかなかったが、メリーは近づいても怒らなかった。リル達の友達だと認識したのだろう。
メリーは初めて間近で見る大きな神獣に少し怯えていたが、キツネ達が取り成していた。大きくても神獣はみんな優しいのである。
メリーは最近の暗い顔が嘘のように笑顔で駆け回っていた。
それを見たブレンダンは安堵した。彼なりにメリーのことを心配していたのだ。
「こちらの愛し子の方々には感謝してもしきれません。メリーが笑っているところを私は初めて見たように思います」
ブレンダンはリヴィアンに頭を下げる。
「ウチの愛し子たちは皆、視察が決まった時からメリー嬢のことを心配していました。こちらの『通訳者』は双子の姉がいますし、愛し子としての仲間もいますからそれほどプレッシャーを感じていませんが、一人きりで大人に混じって働くのは辛かろうと心を痛めていたのです。私の勝手な考えですが、歳の近い友達を作ってやるのはどうでしょうか」
リヴィアンの意見にブレンダンはハッとする。確かに『通訳者』として働かせようとするばかりで他のことにはあまり気を回していなかった。子供には同じ子供の友人が必要だろう。
「そうですね、確かに今のメリーを見ているとそう思います。今までは大人にばかり囲まれてきっと恐ろしかったでしょう。気を使っていたつもりでしたが、見当違いだったのですね。反省するばかりです」
ブレンダンは自国に戻ったら自分の娘でも紹介しようと考えていた。活動的な子だからきっとメリーとも合うだろう。
一方その頃メリーは神獣たちにおやつをあげていた。厨房から寸胴鍋を運び込んで、温室から野菜を収穫する。メリーは寸胴鍋の中身が角煮だと知ると声を出して笑っていた。流石におやつが角煮だとは思わなかったようだ。
「神獣は人間の食べるものも結構食べるよ。みんな角煮が食べたくて材料を狩ってきてくれるくらいだから」
「そっか……たぬたぬちゃんはだからそんなにプクプクしてるの?」
プクプクしていると言われたたぬたぬは傷ついた。リアの腕を抜け出してまた走りに行ってしまった。
「あれ?私たぬたぬちゃんを傷つけちゃった?」
メリーはオロオロとたぬたぬを見る。
「大丈夫、よくある事だから」
リアは特に気にした様子もなくたぬたぬを見つめている。
琥珀は呆れ返っていた。
『太る前に毎日運動すればいいのに』
『そいつはたぬたぬには無理な話だと思うね。いつもリアに抱き上げられているんだから』
琥珀とマロンの言葉にメリーは笑ってしまった。神獣にも個性があるのだと初めて知った。
リル達は柔らかいパンに角煮を挟むとみんなにあげてゆく。
草食の子達には野菜を細かくちぎってやる。
美味しそうに食べている神獣は本当に可愛いとメリーは思った。
いつかメリーもこんなふうに、自国の神獣と仲良くなれるだろうか。
「あの、国に帰ったら、みんなにお手紙書いてもいい?相談にのってほしいの、私は神獣についてほとんど知らないから」
もちろんとリルは笑う。リアはすぐにリヴィアンに確認を取りに行く。国の検閲は入るが手紙のやり取り自体は大丈夫だそうだ。
ブレンダンはリアに頭を下げて、仲良くしてくれてありがとうと言った。
リアはメリー達に手紙の許可が下りたと伝える。
そうか、許可が必要なのかと国同士のことに疎いメリーは反省した。
それからもリル達は神獣についてできる限りのことをメリーに教えた。それはとても簡単なことで、メリーは安堵した。きっとキツネさん達も協力してくれるし、何より素敵な友達もできた。『通訳者』として働く覚悟がようやく決まったように思う。
リアは頑張って運動したたぬたぬに、ご褒美の角煮サンドを食べさせてあげながら安心した。メリーの顔はここに来た時とは別人のように晴れやかだったからだ。
アナスタシアが神獣の健康についてもレクチャーしている。それをメリーは真剣な表情で聞いていた。
リルは神獣のブラッシングの仕方を説明してあげていた。
あっという間に夕方になってしまって、メリーは少し寂しく思った。必ず手紙を書くと約束して別れる。
みんなメリーが『通訳者』として上手くやって行けることを願っていた。
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