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52.視察団

 イアンに呼び出された翌々日、第二聖騎士団の拠点に視察団の人達がやって来る日だ。

 神獣たちに隣国の視察団が来るという話をしたところ。神獣たちは隠れるのではなく、むしろ見に来るという選択をしたらしく、いつも以上に拠点は神獣で溢れていた。

 特にいつもは森の見回りをしている強い子が集まっているのは圧巻だ。隣国の使者をなんだと思っているのか臨戦態勢である。

 リルは攻撃しちゃダメだと言い聞かせるのに必死だった。

 

 エクス王国の者を乗せた馬車がこの国の騎士に護衛されながら拠点へやって来る。

 みんなアスレチックの方で固まっているが、一頭のクマだけがアナスタシアの後ろに立った。クマなりに足の不自由なアナスタシアを心配したのだろう。琥珀とマロンはリルの横で待機している。リアはたぬたぬを抱き上げてじっと馬車を見つめていた。

 

 三人とも顔を隠すためのベールを着けているが、それが余計にこの状況を不可思議なものにしている。拠点の聖騎士たちは後ろで笑っていた。

『おうおう、リアを傷つけたら噛み付いてやるからな』

 たぬたぬは気合い充分である。

 たぬたぬの好戦的な態度に琥珀は呆れ返っていた。

『ちょっと、喧嘩しに来るんじゃないんだから大人しくしなさいよ』

『だってどんな奴が来るのか分からないじゃないか』

 一連の会話を聞いていたリルは笑ってしまった。

 なんだか緊張が解けた気がする。

 

『僕は『通訳者』の子が心配だね、リルと仲良くなれるといいけど』

 マロンはいつでもリルの願いを尊重してくれる。リルは勇気を貰った。沢山お話しようと思う。

 

 

 

 馬車が止まり中からリヴィアンとマーリンが出てくる。イアンが前に出て視察団を迎える準備をした。

 続いて二人の男性と子供が降りてくる。三人は拠点の有様に呆然としていた。

 イアンが挨拶をすると、我に返って挨拶を返した。

「私は今回の視察団の代表ブレンダンです。こちらは騎士のダニエル。そして『通訳者』のメリーです」

 メリーはまだ衝撃から立ち直れないらしく、ずっと神獣たちを見つめていた。

 リヴィアンがリル達の傍に来ると、紹介を始める。

「こちらが『特別神獣保護隊』のアナスタシア、リア、そして『通訳者』でもあるリルです。メリー嬢とは歳も近いですし、いい刺激になるのでは無いでしょうか?」

 礼をすると、視察団の三人は当たり前のように傍にいる神獣達に驚いたようだった。

 

 メリーはその光景を見て泣きそうになった。

 こんなの無理に決まっている。自分がどれだけ頑張っても彼女達の様にはなれないと心が折れてしまった。

 今までどれだけ話しかけても、神獣は自分に対する警戒を解いてくれなかった。ドラゴンにも拒絶されて、怒らせて、メリーは限界だった。メリーはポロポロと涙を零すと、突然森の方へ駆け出してしまった。

 

 

 

 驚いたブレンダンがメリーを追いかけようとするが、リヴィアンは彼を制止した。そしてリルたちの方を見る。言いたいことのわかったリル達は、メリーを追いかけた。

 

 メリーは木の幹に腰掛けて泣いていた。三人はそっと声をかける。

「どうしたの?森の中は危ないよ」

 メリーは嗚咽しながら言った。

「無理だよ、おうちに帰りたい。こんなのもう嫌だ」

 余程辛かったのだろう。メリーは周りも気にせず泣き続けた。

 リルがメリーの背中を撫でてやる。リアがハンカチを渡してあげた。アナスタシアは頭を撫でて、メリーの言葉に相槌をうつ。

 いつの間にか周りに神獣が集まってきていた。

 

 どれくらい時間が経っただろうか、メリーは泣き疲れたらしく、小さくしゃくり上げるだけになった。

 まだ十一歳の女の子だ、突然親元から離され国のために働けと言われて、どれほど孤独だっただろう。リルは可哀そうで見ていられなかった。

「ねえ、周りを見て」

 メリーが顔を上げ、周りを見ると神獣達がメリーを見ていた。

『大丈夫?』

『悲しいの?』

 神獣たちは口々にメリーを慰めた。

 それはメリーにとって初めての体験だった。

「神獣はとっても優しいの。メリーさんのことも、ちょっと警戒してただけだよ。沢山話せばちゃんとお友達になれるよ」

 リルの言葉にメリーはまた涙を零した。

「ここの神獣たちは人間に慣れてるの。ここなら沢山お話できるよ」

 メリーはそんなはずないと思った。神獣に話しかける度、逃げられて、大人たちに落胆されてきた。神獣の言葉が分かっても、神獣に自分の声は届かないとメリーは思っている。

 違ったのだろうか。自分の声はちゃんと神獣たちに届くのだろうか。メリーはもうどうすればいいのかわからなかった。

 

 一匹のキツネが、メリーの元へやってくる。

『ねえ、エクス王国ってどんな所なの?僕、君が来たら話をしたいと思ってたんだ』

 メリーは驚いてキツネを見つめる。

「このキツネさんはね、旅行に興味があるんだよ」

 リルの言葉にメリーは目を見開いた。キツネの中でもかなり好奇心が旺盛なこの子は、よく旅に出たいと言っていた。今回メリーについてエクス王国に行けるかもと聞いて、一番喜んだのがこの子であった。

 メリーはキツネに聞かれるままにエクス王国のことを話し出す。いつの間にか涙は完全に止まっていた。リル達はホッとして、先程からメリーにバレないように覗いていた大人たちの方を見る。

 大人達は一足先に拠点の方へ戻って行った。

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