49アナスタシア
アナスタシアが拠点に来てから三日がたった。アナスタシアは足の治療が遅かったために後遺症が残り、歩くのに杖が必要になってしまった。しかしようやく歩けるようになり、顔色も良さそうだった。
今日はアナスタシアが本当に神獣に警戒されないのか試す日である。
リル達はアナスタシアを外に連れ出すことにした。
外に連れ出すと、すぐに無数の神獣が彼女の元に集まってくる。
拠点に来るまで神獣を見た事のなかったアナスタシアは、神獣の人懐っこさに驚いた。
リルが心配してるんだよと教えてあげると、アナスタシアはまるで会話しているかのように神獣に大丈夫だと伝えていた。その姿は非常に動物慣れしていて『獣医師』であることも納得出来た。
驚いたのはイアン達である。ほとんど初対面で神獣がここまで懐くのはリルとリアしか居なかった。リアの推測は当たっていたのだ。
イアンは急いでリヴィアンに魔道具の鳥を飛ばした。おそらく彼女は『特別神獣保護隊』に入隊することになるだろう。
しかし神獣が無条件で懐く理由が分からなくなったと、イアンは頭を抱えた。今後はそれに関する研究も保護隊に要請することになるだろう。実は研究するまでもなくリアたちは答えを知っているのだが、表に出していいものか悩んでいた。
アナスタシアはリルとリアと一緒に神獣達と戯れている。
十四歳だというアナスタシアだが、とても大人びた落ち着いた少女だった。
ソバカス混じりの顔に栗色の髪をした、どこにでも居そうな少女だが、何故か目を引く不思議な空気をまとっている。そういった雰囲気はリアと似ているかもしれない。
イアンはジャスティンを呼び寄せると、アナスタシアのことも護衛するよう命じた。
その頃リアはアナスタシアに問いかけていた。
「あなた、転生者でしょう?」
アナスタシアは驚愕に目を見開いた。
「私もリルもそうなの。日本からの転生者。神獣が無条件に懐くのは転生者だけみたい」
アナスタシアは泣きそうな顔をした。
「私、転生者には初めて会ったわ。ずっと怖かったの。死んだと思ったら、知らない世界に生まれ変わって、日本とは何もかもが違うし、バレたら忌み子と言われて殺されるんじゃないかって……」
リアはその気持ちがよくわかった。レイズ王国は差別思想が強い。日本で生まれ育った人間がレイズ王国で暮らすのはあまりに苦痛だった。
「この国の建国王も転生者なんだよ。道徳的なところを重点的に改革した人だから、レイズ王国よりずっとマシだと思う」
個人的にリアは、レイズ王国にも転生者が関わっていると睨んでいるが、その話はしなかった。憶測でしかないからだ。
「思ったより転生者って沢山いるのね。安心した」
アナスタシアは胸を撫で下ろす。
「私とリルは公には転生者じゃなくて守護霊憑きってことになってるから、話を合わせてくれると嬉しいな」
「そうなの?じゃあ私も守護霊憑きってことにしようかな?なんだか転生者だと根掘り葉掘り聞かれそうで嫌だし」
「それがいいと思う。守護霊憑きの話は聞いても、転生者の話はほとんど聞かないもの。厄介なことに巻き込まれたら困る」
リアはアナスタシアにも一応ドラゴンの話を聞かせておく。
「神が呼び寄せたの?私の前世、普通の動物園の飼育員だったんだけど……神様は私がこの世界で何ができると思ったんだろう?」
アナスタシアは自分が選ばれた理由がわからなくて困惑している。
「それに関しては私達も分からないよ。ドラゴンさんはやりたいことをやれって言ってたから、深く考えなくてもいいんじゃない?」
アナスタシアはその言葉にホッとしたようだ。
「それにアナスタシアさんは私たちと同じ『特別神獣保護隊』に配属されちゃうと思う。神獣が無条件に懐いたから」
アナスタシアはそれを聞いて目をキラキラさせた。
「神獣に関われるなんて嬉しい!私動物大好きなの!」
前世が飼育員だったというのだから相当なのだろう。アナスタシアは心から喜んでいるようだった。
ここまでの話を黙って聞いていたリルは、アナスタシアになんの動物の世話をしていたのか聞いた。
「私は鳥類の担当だったの、ここにも鳥の神獣が沢山居るみたいで嬉しいわ」
リルはアナスタシアに鳥の神獣の話をしてあげた。鷹を始めとして鳥は種類が多く、よく歌いに来るのだと。
アナスタシアはそれを聞いてワクワクしていた。捨てられて良かったのかもしれないと思うくらいには。
こうしてこの拠点に新しい仲間が加わったのである。
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