48.リアの推測
アナスタシアの眠る部屋を出た後、リアはイアンに聞いた。
「お父さん、今まで今回のように、神獣が直接人間を拠点まで運んできてくれたことってありましたか?」
イアンは少し考えて言う。
「いや、そういえば初めてだな……それがどうかしたのか?」
「いえ、まだ憶測ですけど、彼女は私と同じなんじゃないかと思って」
リアはそう言って考え込む。イアンはよく意味がわからなくて固まってしまった。
「それは神獣が警戒心を抱かない人間ということか?」
ようやく絞り出した答えにリアは頷く。
「さっきのマロンと琥珀の様子を見る限りそんな気がします」
そう言うとリルに振り返って聞いた。
「琥珀、マロン、アナスタシアをどう思う?」
『良い人間だと思ったわ』
『ああ、良い奴だと思ったよ』
リルが通訳するとイアンは驚愕した。神獣はみんな初対面の人間が来ると隠れてしまう。拠点の聖騎士にでさえ、一定距離以上は近づこうとしないものが多い。特に弱い神獣は。
だがリアは最初から例外だった。初日に神獣の方からリアの膝の上に乗るのを見ている。リルの姉だからでは無かったのだろうか。
「後で検証してみた方がいいと思います」
リアの言葉にイアンはアナスタシアが起きたらそうしようと誓った。
イアンと別れて外に出ると、神獣たちが集まっていた。
『あの子、大丈夫?』
『元気になった?』
神獣たちが口々に聞いてくる。リルは大丈夫だと返した。
「もしかしてみんな心配してる?」
リアに聞かれたので、そのままとても心配しているようだとリルは返した。
リアはいつもの様に、そばに居たタヌキを抱き上げるとそのままあったかスポットに向かった。ちなみに春なので暖かくはしていないのだが、なんとなくの習慣だ。
「みんなにアナスタシアをどう思ったか聞いてみて」
リルはリアの言う通りにみんなに聞いてみた。みんな良い人間だと言う。
「やっぱり、アナスタシアさんは多分私達と同じだよ」
リルは意味がよく分からなかった。首をかしげたリルにリアは詳しく説明してくれる。
「ドラゴンさんの言うところの、神がこの世界に遣わした磨かれた魂の人間ってこと。最初はリルが『通訳者』だから、神獣は『通訳者』には無条件に懐くものだと思ってたけど、そうじゃなかったんだよ」
リルは前にドラゴンとかわした話を思い出す。人間が試練を乗り切るために、美しく磨かれた魂を持つ人間に特別な能力を与えてこの世界に呼び寄せるのだと言っていた。
「神獣が無条件で懐くのは神が呼び寄せた人間ってこと。きっと神獣にはそれが分かるんだ」
リルとリアは神様に呼ばれた人間だから、神獣たちが仲良くしてくれるという事だろうか。それならリルにも理解できた。
「ちょっと神獣達に、どんな風にいい人間だと思うのか聞いてみて?」
リルが聞くとみんなは仲間のような気配がするのだと返した。
「なるほど仲間か……どちらも神様の息がかかっているからかな?」
リアは何やら考え込んでいる。リルは仲間の様だと言ってもらえて嬉しかった。
アナスタシアさんも神獣と仲良くなれる人なら、リル達と仕事をすることになるのだろうか。リルも仲良くなれるといいなと無邪気に思っていた。
一方後ろで会話を聞いていたジャスティンは、これは自分が聞いていい話なのかと困惑していた。そもそも神に直接呼び寄せられた魂とは一体なんの話なのか。自分は思っていたよりもとんでもなく貴重な存在の護衛をしていたのか。あまりの混乱に口を挟むことが出来ずにいた。
リルとリアはジャスティンがそばに居ることに馴染みすぎて、度々存在を忘れるのである。
その度に彼女達の口から飛び出す常人の理解を超えた発言は、ジャスティンをとても困惑させた。実に不憫である。
この従姉妹達のことは、ジャスティンなりにとても可愛がっているつもりだが、あらゆる意味で得体がしれないとも思っている。
とにかく今はうっかり知ってしまった事実を、二人のために記憶の中に封印するべきだろう。ジャスティンは王族の血筋だけに賢明だった。
タヌキを撫で回しながら思考に走るリアと、ただただ無邪気にリアの意見を受け入れるリルに、もしかしたらこれにアナスタシアが加わるのかもと知ったジャスティンは、彼女が大人しい普通の女性であることを祈っていた。
こちらのサイトに小説を投稿し始めてからもうすぐニヶ月が経ちます。
完結作も合わせてブックマーク数が五千を超えました。ジャンル別ランキングもかなり上位になりまして、まさか二ヶ月でこれ程の人に読んで頂けるとは思っておらず、とても嬉しいです!
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