44.活動期の終わり
秋が来て、冬の初め。漸く活動期は終息した。ウィルス王国は過去一番の低被害で活動期を乗り切った。国民は神獣が魔物討伐に力を貸してくれたと聞いて神獣達に感謝した。元々神獣信仰が強い国だったのだが、それが更に顕著になったのだ。
リルとリアはあったかスポットで琥珀にもたれかかって神獣たちのブラッシングをしていた。森もすっかり平和になったので、神獣たちもくつろぎモードだ。
『今年は沢山遊べるかな』
キツネが嬉しそうにしっぽを振っている。
『リルも春になったら森で遊ぼうよ、きっと楽しいよ』
珍しくやって来てくれたトラが誘ってくれる。
「うん、お父さんにお願いして森に入れるようにするね!」
もうすぐリルは八歳だ。そろそろ森の浅い所には入ってもいいだろう。
この一年は本当に慌ただしかった。残念だが亡くなった神獣も少なからずいた。リルは悲しかったが、みんなが春からベビーラッシュが始まるから楽しみにしていてと言うので、悲しんでばかりではいけない事に気がついた。
この国の被害は軽微だったが、他の国は多くの犠牲者が出たらしい。リルの生まれた国――レイズ王国は普段は結界を張って魔物の侵入を防いでいるが、結界内に魔物が湧いてしまい大変な被害が出たらしい。
もうひとつの隣国であるエクス王国は同盟国なので、近々この国の活動期対策を視察に来るらしい。隣国でも神獣と人間が仲良く出来たらいいなと思う。
レイズ王国は獣を毛嫌いしているから難しいかもしれないが、エクス王国には神獣信仰があるらしいからきっと出来るだろう。
「ジェイお兄ちゃんはまだ私たちの護衛を続けるの?」
ジャスティンはリルの言葉にもちろんと返した。
「『通訳者』に護衛がつかないのは問題だ。今回の活動期はリルのお陰で何とかなったもんなんだからな」
リルは自分より神獣のおかげであると思っている。でも神獣の言葉がわかるのはリルだけなので守られないといけないのだろう。
ジェイお兄ちゃんと一緒に居られるのは嬉しいのでいいかと思うリルだった。
「ジェイ兄だけじゃなく私も護衛するからね」
最近剣を極めているリアが胸を張って言う。ジャスティンはリアも護衛される側だと言いたかったが、そう言うと機嫌を損ねるので止めた。リアも神獣が無条件で心を許す存在なのだ。立派な護衛対象である。でも本人はリルの護衛のつもりでいるから質が悪いのだ。
リルは久しぶりののんびりとした休日に何をしようか考える。
そして神獣たちに文字を教える約束をしていたことを思い出した。
リルはスケッチブックを持ってくると。そこに大きく文字を書いてゆく。まず書いたのは『助けて』だ。神獣たちがリルの手元を覗き込んでいる。そして首を傾げていた。いつもの様に絵じゃなかったからだ。
「これは文字だよ。これが書けるようになれば人間とお話しできるの」
神獣たちは納得したようだった。雪に真似して文字を書き始める。ただ前足で字を書くのはとても難しいらしかった。どうしても文字がとても大きくなってしまう。リルは困った。文字を覚えても書けなければ伝えられない。
「各拠点にボードでも用意する?絵と文字を書いたボードを、想定される状況に応じて用意しておいて、神獣に指してもらうの。小さい子たちならそれで十分でしょう。興味のある神獣には個別で詳細な文字を教えればいいよ」
リアが言った。なるほどそれならリルも神獣たちも楽に言葉の問題を解決出来る。絵があると覚えやすいしそんなに種類もないから、本腰を入れて勉強する必要は無いだろう。
リルは早速ボードの作成に取り掛かることにした。
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