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41.鷹さんにおねがい

 リルは先日の事件から、一生懸命活動期の解決策を考えていた。今日はリアも一緒になって考えてくれる。

「まず異変に早く気づけることが大事じゃないかな?」

 リアはリルには思いつかない現実的な解決策を出してくれる。

「ほら、社会人の基本は報告、連絡、相談だって言うでしょ。それが出来なかったからこの間は大変だったわけで、早期に報告出来ていたらもっと問題は簡単だったんだよ」

 リアは紙に綺麗に文字を書いてゆく。

「だから連絡網を作ろう。温室の時みたいに鳥の神獣にお願いして定期連絡してもらうの。情報がリルの元に集まるようにすれば軍もすぐ動けるでしょう」

 リルは感激した。流石お姉ちゃんだ。やっぱり私のお姉ちゃんは世界一かっこいいとリルは思った。

「後は軍で倒せない強敵が現れた時に、直ぐにドラゴンさんに援軍をお願いできるようにすることかな?この拠点にも各拠点から魔物の情報を教えて貰えるようにお願いしよう」

 リアはまたサラサラと文字を書いてゆく。『活動期対策案』と書かれたそれは綺麗に纏まっていてとても見やすい。

 

 後ろで二人の様子を見ていたジャスティンは舌を巻いた。この姉は賢いにも程があるのでは無いだろうか。

 社会人の基本とはなんだ、そんなの聞いたこともない。しかし理に適っている。


「あと私、一つ思ったことがあるの。神獣はこちらの言葉を理解しているわけだから、神獣に文字を教えたら『通訳者』が居なくても大丈夫なんじゃない?」

 

 ジャスティンは思ってしまった。確かに、と。どうして今まで誰も気づかなかったのか。不思議なほどだ。

 リルは凄いお姉ちゃん天才と無邪気に手を叩いているが、それが実現したらこの国は変わる。神獣と共に、今よりもっと発展することだろう。神獣は長く生きる、世界の生き字引でもあるのだ。

 そんな事をなんでもないことのように話す姉妹に、ジャスティンは絶句した。姉のスキルは『賢者』か何かなのだろうか。

 

 そうして完成した『活動期対策案』はイアンの元に届けられ、彼をも絶句させることになる。

「凄いでしょ、みんなお姉ちゃんのアイディアだよ!」

 リルは大喜びで報告する。

「凄いな、リア。勲章ものだぞこれは」

 イアンは若干疲れたようにリアの頭を撫でる。

「それじゃあこちらで出来ることには早速取り掛かりますね。国への要請はお任せします」

 まるで上司と部下のやり取りのような言葉に、イアンはリアに子供らしさを要求するのは間違っているのだろうかと思い悩む。

 ジャスティンも後ろで見ていて、リアへの認識を改める事にした。

 どこまでも無邪気なリルが癒しである。

 

 

 

 リルは早速前庭に出ると、鳥類代表である鷹を呼んでもらった。

 活動期の対策の話をすると、丁度神獣たちも対策会議を開いたりしていたようで、人と連携できることを喜ばれた。

 後ろで聞いていたジャスティンは神獣も会議とか開くんだなと感心していた。

 

 鷹に連絡網をお願いすると二つ返事で了承してくれた。毎日各拠点近くの森の情報をリルに教えてくれるという。鷹はやっぱり仲間思いで優しいなとリルは思った。

 

 神獣に文字を教える計画の話もすると、とても興味をもってくれた。『通訳者』がいなかった時はとてももどかしい思いをしていたという。ただ活動期中は忙しいので、本格始動は活動期が終わった後になりそうだ。活動期は大体春からおよそ一年ほど続くものらしく、その一年は精一杯耐えるしかないのだ。

 春までに対策を完璧にしなくてはならない。

 

 鷹とお話ししていると、唐突にリアが言った。

「ねえ、鳥たちはどれぐらいの重さのものを運べる?」

『自分の体重と同じくらいが限度だな』

 リルが通訳してやる。

「なら怪我をした神獣を軽量化の魔道具のカゴに入れて運ぶことは出来るかな?お父さんみたいに『治癒』のスキルを持つ人のところまで運べたら活動期もちょっとは安心じゃない?」

『おおそれは良いな、一羽では無理でも数羽で協力すれば大きいものでも運べるだろう』

 リルの通訳にリアは笑う。

「これは国に相談しないと駄目だから、決定するまでちょっと待ってね」

『ああ、結果を楽しみにしているぞ』

 上機嫌の鷹をリアは撫でた。そして早速報告しようとイアンの元に走り出す。

 

 

 

 その三日後の事だった。拠点にリヴィアンとマーリンがやってきた。

「やあ、今日も可愛いね。双子ちゃん達」

 リヴィアンが二人の頭を撫でると、ジャスティンが顔をしかめる。

 父親のキザなセリフに拒絶反応が出たようだ。

「今日は先日の『活動期対策案』の話をしに来たよ」

 

 イアンも交えて話したいため団長室へ移動すると、早速リヴィアンは話し出す。

 

「この案自体は概ねそのまま了承できるよ。ただ救護に関しては決めなきゃならないことが多すぎる。『治癒』のスキル持ちは少ない訳では無いけれど多くもないからね。いきなり鳥が飛んできたら、街の住民に神獣が攻撃される恐れもあるしね。そもそも神獣にどうやって能力者の場所を教えるかって問題もある」

 

 リヴィアンの言葉にリアは答える。

「それなら既に対策案を纏めてあります。こちらの資料をお読みください」

 一瞬、部屋に沈黙が訪れた。

「なるほど、すでに出来てるかー。今日はこちらも案を用意してきたんだけど、比べてみようか。いい方を採用したらいい」

 

 話し合いはとてもスムーズに進んだ。リルは途中からよく分からなかったが、細かいところはすべてリアに任せることにした。

 昼過ぎにようやく話し合いが終わると、リヴィアンは言った。

「いやーもっと時間がかかると思ってたんだけど、さすが天才少女。話が早くて助かるな。話し合いの直前に腕輪を外したことだけ減点ね」

 リアは小さく舌を出す。リヴィアンはリアの子供らしい仕草に少し驚いたが、同時に嬉しくなった。前にリアが纏っていた張り詰めたような緊張感が無くなったことに気づいたからだ。今見ているのが素のリアなのだろう。

 

 もうすぐ来る活動期で、この子達が心を痛めることが無ければいいとリヴィアンは祈った。

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