40.いとこ
第一聖騎士団での任務が終わった次の日、リアはどうしても気になっていた事をイアンに尋ねることにしていた。
リアからは言い出しにくいことであったが、背に腹は代えられない。訓練の時にイアンを呼び止めて言った。
「もう少ししたらリルの誕生日だと、お父さんは知っていますか?」
イアンは寝耳に水だった。イアンはリルに出会った時、リルの誕生日を聞いた。しかしリルは知らないと答えたのだ。でもリアはリルと双子の姉妹なのだ。誕生日が同じなのである。二人はもうすぐ七歳になるのだ。
「リア、教えてくれてありがとう。一緒にお祝いしような」
イアンは本人から教えて貰って申し訳ないような思いになったが、リアの性格上、自分の誕生日を祝って欲しいというより、リルの誕生日を盛大に祝って欲しいという思いの方が強そうだったので素直にお礼を言った。リアはホッとした様子でリルには内緒にしておきますねと言った。
そんなことがあった更に次の日、イアンの元に甥のジャスティンが現れた。そしてリヴィアンからの手紙を差し出す。
内容を要約するとこうだ、活動期が近いということで重要人物になるであろうリルとリアに護衛をつけることにした。ジャスティンを二人のそばに置いておけ。だそうだ。
ジャスティンは『守護者』というスキルを持っている。父であるリヴィアンの『剣神』のスキルと対極で、こと守ることに関しては最強を誇るスキルだ。
しかし今まではそれを、王の護衛にという勧誘を無視して神獣のために活用していた。誰が説得しても揺るがなかったのにどういう風の吹き回しだろうか。
「お前はそれで納得しているのか?」
イアンが問うと、ジャスティンは当たり前の事のように言った。
「守護対象が『通訳者』ですから。むしろ自分から志願しました。姉の方も何故か神獣が全く警戒していませんでした。父の言う通り守るべき者かと思います」
イアンは考える。甥は十五歳になったばかりだ。二人のそばにいる護衛としては歳も近いし悪くないだろう。
自分がリルを守ると豪語する、リアの反応だけが気がかりだが、良い選択なのではないかと思った。
その日の夕方。イアンはジャスティンを二人の護衛として迎えると皆に通達した。リアは奥歯をかみ締めてジャスティンを睨んでいたが、今現在では敵わないとわかっているのだろう、膨れっ面で不満を飲み込んでいた。それを可愛いと思ってしまったのは、イアンがリアに対しても父性が芽生えた証拠だろう。
リルは純粋に従兄弟と仲良くなれることを喜んでいたが、リアはいつか打倒する気満々であった。この三人は上手くやっていけるだろうか、一抹の不安が過ぎったが、根が優しい三人のことだからきっと何とかなるだろう。イアンは成り行きに任せる事にした。
リルはリアと一緒に、ジャスティンに拠点を案内していた。前庭の神獣たちのための施設にジャスティンは心から感嘆した。そこで過ごす神獣達は本当にリラックスしている様子だったからだ。
「ジェイお兄ちゃんは神獣が好き?」
ジャスティンは長いので、愛称で呼ぶことを許してもらったリルは上機嫌で尋ねた。
「昔神獣に助けてもらったんだ。森に勝手に入って魔物に殺されそうになった時に、ライオンの神獣に助けられた」
「ライオンさんはたまにここに来るよ。お兄ちゃんを助けてくれた神獣と親戚かもしれないね」
ジャスティンはそうなのかと笑った。あれ以来一度もライオンの神獣と出会ったことは無かったのだ。ここにいたら出会えるかもしれないと聞いて楽しみになった。
「ライオンさんは森を守るお仕事があるから中々来られないけど、たまにお土産にお肉を持ってきてくれるんだよ」
ジャスティンはやはり『通訳者』は凄いと感心した。神獣が獲物を分けてくれるなんて聞いたことがなかった。
「そう言えば、私の時もくれたね、わざわざ挨拶に来てくれるなんて思ってなかったからビックリしたよ」
リアもなんでもないような事のように言った。
やはりこの双子は特別なのだとジャスティンは思う。姉のスキルが何であるのかは知らないが、スキル封じの腕輪を着けているのを見る限りかなり強力な物なのだろう。二人とも一般的な六歳よりかなり大人びた思考をしているし、守護霊も憑いていると聞く。ジャスティンは護衛として気を引き締めた。
あったかスポットに着くと、みんな興味津々でジャスティンを見た。
『リル、その人だあれ?』
「この人はジャスティンお兄ちゃんだよ。今日からここで暮らすの」
みんな一定の距離を保ちつつジャスティンを観察していた。
「活動期が近いから私とお姉ちゃんの護衛をしてくれるんだよ」
リルが言うと安心したのか、またくつろぎ始める。
一匹のタヌキはリアの足元に行って抱っこをせがんでいる。
アイスクリームの時の子だ。リアはタヌキを抱き上げると休憩に入る。リルも案内は終わったからとみんなとお話を始めた。
その光景をジャスティンは感嘆しながら見ていた。神獣は普通人間に近づかないし触らせない。ここにいる神獣は当たり前のように二人のそばにいた。不思議な光景だった。
小さい頃ジャスティンは、父に付いているマーリンのような守役が欲しくてたまらなかった。だから神獣に会いたくて森に入ったのだ。
結局神獣に助けられただけで終わってしまったが、憧れの気持ちは消えなかった。
だから聖騎士になったのだ。しかし蓋を開けてみれば神獣を助けることも出来ずに指を咥えるだけだった。
でも相手が人ならば守れる。自分は『守護者』なのだから。ジャスティンは全力で二人を守ろうと決めた。
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