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39.活動期

 第一聖騎士団の拠点は一言で言うなら殺風景だった。イアン曰くそもそも王都が近いので常駐する聖騎士の人数も少ないそうだ。なんと今は三人しか居ないらしい。そんな中で真新しい温室だけが異彩を放っている。

 

 三人はまず拠点に挨拶に向かった。

 拠点では三人の騎士が出迎えてくれる。

「御足労いただきまして感謝します、イアン王弟殿下並びにご息女様方。私はこの拠点を預かるランドンと申します」

 真ん中の神経質そうなメガネの騎士が、挨拶してきた。

 イアン達も挨拶を返す。

 そしてランドン団長の隣にいた長身の男性を紹介される。

「副団長のアルフです。そしてその隣はご存知の通り今年ここに配属になったジャスティンです」

 その人はイアンと同じ金髪のとても見覚えのある顔をしていた。

「リル、リア、こいつは兄上の息子だ。二人の従兄弟になるな」

 リルは驚いた。こんなに大きな息子さんがいたとは思わなかった。思わずじっと見つめてしまう。すると目をそらされてしまった。

 ジャスティンは仏頂面で言った

「よろしく……」

 怒らせてしまっただろうか。リルは不安になった。すると腕輪を外したリアが問う。

「何か怒らせるようなことをしてしまいましたか?」

「別に怒ってねーよ」

 リアがリルの手を繋いで言う。

「怒ってないって、大丈夫だよ」

 リルは安心した。リアがリルには見えないようにジャスティンを睨む。ジャスティンはその目つきに薄ら寒いものを覚えた。

 

 イアンは三人のやり取りが可笑しくて笑いをこらえていた。ジャスティンは昔から人見知りだった。初対面ではつい不機嫌そうな態度を取ってしまうらしい。イアンも最初はそんな対応をされたものだった。リルを悲しませたためにリアに睨まれたが、大丈夫だろうか。リアはリルに関しては過激だからなと、他人事のように思っていた。

 

 

 

 イアンが話を戻そうとした時、突然リルの足元にウサギ達が群がってきた。

『助けて』

『お願い助けて』

 リルがしゃがんでウサギ達に問う。

『魔物強いの』

『勝てないの』

「そっか、強い魔物がいて勝てないんだね」

 リルがそう言うと、ランドン団長達は唖然としていた。

 これが『通訳者』かと、信仰心の強いランドン団長は祈りを捧げたくなった。


「それがどんな魔物で何処にいるのか聞いてくれ」

 ジャスティンがリルに言う。リルが問うまでもなくウサギ達が返してくれる。

『クマなの、変異種、怖いの』

『トラの洞窟を取ったの、ネグラにしてるの』

「クマの変異種がトラの洞窟を奪ってネグラにしてるんだね」

 アルフ副団長が拠点から急いで地図を持ってくる。

「森でトラが見かけられるのはこの辺りですね」

「だとしたら洞窟のあるのはこのあたりか?いや、こちらの可能性もあるな」

 

 リルは団長たちの会話を聞いてウサギ達に問いかけてみる。

「誰か地図が読める子いないかな?」

『呼んでくるの』

 数匹のウサギが走っていった。

 リアは怪我をしているウサギが居ないか確認していた。リアはリルと同じ顔をしているせいかなんなのか、何故か神獣に警戒されないのだ。

 

 少しして、ウサギが怪我をしたトラを連れてきた。可哀想に、左目をやられたようで、まだ完全に傷が塞がっていない。

「お父さん!」

 リルが呼ぶとイアンはトラに近づいた。

「お父さんが傷を治してくれるから、じっとしててね」

 イアンが傷口の近くに手をかざすと、あっという間に傷が治っていく。リルは感動した。トラは驚いた顔をしてイアンに頭を下げた。

『礼を言う、人間の治療師よ』

 イアンは礼を言われているのを感じたので、返答した。

「気にしなくていい、それよりネグラの場所を教えてくれ。あと、他に怪我をしているものが居たら連れてきて欲しい」

 その言葉にウサギが走って森に入る。

 トラはランドン団長たちに近づくと、前足でネグラの場所を示した。

『ここだ、だが気をつけろ、奴は影の魔法を使う。突然影から顔を出して襲ってくるんだ』

 リルは通訳した。ランドン団長たちは大きく頷く。

「それだけ分かれば十分です。軍には影の魔法の対応策もあります。早速出動を要請しましょう」

 

 急転直下の解決劇だった。ジャスティンは思わず呆然としてしまう。神獣と意思の疎通が出来るとこれほど早く解決するのかと、神獣達を心配していたジャスティンは悔しかった。

 王家が『通訳者』を養子とするのも頷ける。

 

 

 

 その後はイアンが運ばれてきた神獣たちを治療し、リルがもっと詳細なクマの魔物の情報を聞き出した。リルの足元には常時ウサギや森に住む神獣達が居てリルのすることをじっと見ていた。

 

 終わりが近づくと、トラがリルに語りかけた。

『『通訳者』よ、感謝する。このタイミングでお前がいるのは神の導きだろう。おそらく活動期が近い。今後このようなことが増えるだろう』

「活動期?」

 そう言った瞬間、ジャスティンが反応した。

「今活動期って言ったか?トラがそう言ってんのか?」

 リルはジャスティンの剣幕に驚きながらも頷いた。

 リアはまたジャスティンを睨む。

「う、悪い。しかし活動期が来るなんて大事だ」

「あの、活動期ってなんですか?」

 ジャスティンは頭を掻きながら説明する。

「魔物の活動期だよ。およそ百年に一度あるって言われるやつだ。その時は魔物が凶暴化して、前の時は王都の塀が壊されたこともあったらしい」

 リルとリアは息を飲んだ。最も守りの堅い王都が侵入を許すなど確かに大事だ。

「その時はドラゴンが来て助けてくれたらしいが、また助けが来る保証なんて無いからな。軍は対策を取らなきゃならない」

 リルは神獣たちを心配した。今回のような時に真っ先に怪我をするのは神獣たちだ。リルは活動期がとても恐ろしいものに感じられた。

 

 帰りの馬車で、リルはまだ活動期について考えていた。リアが心配して手を握ってくれる。

 トラはリルが居るのは神の導きだと言った。リルに何か出来ることがあるのだろうかと考える。

 

 翌日、無事クマの魔物が討伐されたと連絡が来た。リルは一先ず胸を撫で下ろすのだった。

 

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