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38.遠征

 リアが拠点にやってきた次の日の朝、リアは宣言通り騎士の鍛錬に参加していた。まず基礎体力訓練から始めると、リアの体力と身体能力にイアンは驚いた。

 これならすぐに剣の稽古を始めても大丈夫だろう。そう思ったイアンはリアに基本の型を教えた。なかなか筋はいいが、どこかおかしな癖のようなものが見られる。聞けば『かなめ』が使っていた剣術の癖であるらしかった。

 イアンは試しにその剣術で戦ってみるように言った。すると中々に強い。もちろん子供にしてはだが。イアンはどちらを極めるか聞いた。すると聖騎士の剣術を習いたいという。両方できた方が強くなれると考えているらしかった。やはりリアは聡明だと、イアンは感心した。

 

 その頃ロザリンは奮闘していた。昨日拠点にリルの双子の姉がやってきたからだ。

 ロザリンはどうしても姉妹でお揃いの服を作ってあげたかった。

 これまでリルの為に作ったデザインに、リアのためのデザインを追加する。

 リアはスカートがあまり好きではないと言っていたそうだ。だから全く同じものでは無くて、メンズ服のような軽やかさと少女らしい可愛らしさを融合させた服にした。

 リルとリアと琥珀とマロン。四人がお揃いの服や小物を纏えるように工夫していた。『裁縫』スキルを持っているロザリンには、服を一日で完成させるなんて朝飯前だ。

 

 リアに早速着てもらうと、リルと並んで王子様とお姫様の様だった。リアはロザリンの作った服を喜んでくれた。リルもお揃いが嬉しいらしく、リアと手を繋いで喜んでいた。

 

 そんな風に、リアはあっという間に拠点に馴染んでいった。リアは真面目で、働くことを厭わない。手伝いは率先して引き受けるため、騎士たちも感心していた。それになんだか拠点に来てから子供らしさが見られるようになった。リルに影響されたのか緊張が解けたからなのかはわからないが、いい兆候だとみんな思っていた。

 

 

 

 リアが拠点にやって来て一週間ほどたった頃。リヴィアンがマーリンに乗ってやって来た。リアはリヴィアンを団長室に案内する。リヴィアンはリアを見て目を細めた。前より表情豊かになっていて安心したのだ。リヴィアンはリアにリルを呼んでくるよう命じた。

 

 嫌な予感がしたリアは、リルを呼んでそのまま団長室に居座る。断固出ていかない構えのリアにリヴィアンは苦笑した。

 

「今日はリルにお願いがあるんだ。すぐに第一聖騎士団の拠点に行って欲しい」

 リルは首を傾げた。第一聖騎士団は王都の近くの小さな森を守護している騎士団のはずだ。

「神獣たちの様子がね、どうにもおかしいんだ。力のない神獣が拠点のそばを離れたがらなくなった。大きい神獣は傷だらけになっている所が目撃されている。冬場は騎士たちも森に入るには慎重にならなければならない、危険だからね。だからリルに神獣たちに何があったのかまず聞いて欲しいんだ」

 リルは神獣たちが困っているなら助けてあげたいと思った。

 イアンの方を見て頷く。


「イアンとリアと一緒に行くといい。特にイアンのスキルは今回役に立つだろう」

 リルはまた首を傾げた。イアンのスキルを知らなかったからだ。

「俺のスキルは『治癒』なんだよ。病気にはほとんど効かないが、怪我にはよく効く。傷ついた神獣たちを治してやれるということだ」

 リルは感心した。優しいお父さんにぴったりなスキルだと思った。

「リアは、特に仕事は無いけど、リルの傍を離れたく無いのだろう?」

 リアは当然というように頷いた。

「幸い第一聖騎士団に聖女の顔を知っている可能性のある人物はいない。だから好きにするといい」

 

 リル達は慌ただしく拠点を出発することになった。今回は琥珀とマロンを連れて行ってもいいらしい。

 リヴィアンが用意した馬車にイアンとルイス、リアと一緒に乗り込む。ルイスと琥珀はちょっと狭そうだ。

 リルにとっては初めての遠征である。リルは不謹慎だが少しワクワクしていた。

『わあ、見てみなよリル!あれが王都だって!』

 馬車のカーテンの隙間から覗き込むと、大きな塀に囲まれた街が見えた。マロンはずっと外の景色を眺めている。冒険が好きなマロンは本当は外に飛び出したいのだろう。でもリルのそばに居てくれる、優しいネズミだ。リルは一緒に外を覗き込んで感動した。考えてみたらリルは、地下と拠点と拠点近くの街しか知らないのだ。見るもの全てが真新しい。

 リアとイアンはそんなリルを微笑ましげに見ていた。

 

 そしてリル達は第一聖騎士団の拠点に到達したのである。

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