37.アイスクリーム
「昨日イアン団長の養子になりましたリアと申します。リルの双子の姉です。どうかよろしくお願いします」
翌日になってすぐに拠点に引っ越してきたリアは、騎士たちに挨拶する。騎士たちは事前にリアの事情を聞いていたため快く受け入れた。
因みにリアは普段はスキル封じの腕輪をつけることにしている。普段から嘘が分かり続けるのは精神的にキツかった。
全員の紹介が終わり解散しようとすると、リアがおもむろに言い出した。
「あの、私将来は聖騎士になりたいのです。皆さんの訓練に参加させて貰えませんか?」
イアンは瞠目した。活発な子だと聞いていたが、もう将来を決めてしまったのかと少し心配になる。
「それは構わないが、リアの歳では全て同じにという訳にはいかないぞ」
「わかっています。子供の私にできる範囲でかまわないので参加させてください」
リアの決意は固かった。それもこれも全てリルのためなのだろうとイアンは思う。リアは翌日から訓練に参加できることになった。
「お姉ちゃん、聖騎士になるの?すごい!カッコイイ!」
リルはそれを聞いて無邪気に応援している。イアンは内心リルもやると言い出さないか心配していたが、その辺は自分の領分ではないとわかっている様だった。
騎士のみんなは、このいっそ感心するくらい対照的な双子に興味津々だった。この子達は退屈な拠点生活に何をもたらしてくれるだろうか。
リアの挨拶が終わって、リルは一緒に外で遊ぼうとリアを誘う。外は今日もとても寒かったが、あったかスポットがあるのでヘッチャラだ。
「これだけ寒いとアイスクリームが作れるね」
リアの言葉にリルは本当に作れるのかと身を乗り出した。
「そう『かなめ』が言ってる」
リアは初めてリルに会った時から、リルに合わせて自分も守護霊持ちだということにしている。リルはリアの中にも『みちるちゃん』のお姉ちゃんがいると知って嬉しかった。
二人は『かなめ』の記憶に従い、雪でアイスクリームを作ることにした。リアはこちらに引っ越してくる時にお菓子の材料も持ってきていたため、厨房にはちょうど材料が揃っていた。
あとは頑丈そうな蓋付き瓶と大きめの缶を探す。瓶は厨房に沢山あった。缶は塗料が入っていたものがあったのでそれを借りることにした。拠点を走りながら缶を探していた二人に騎士たちは何をするのかと気になった。
まずは普通にアイスクリームの素を作る。リアが器用に生クリームを泡立てたり、卵と砂糖を混ぜたりする。リルも少しだけ手伝った。
それを瓶に入れると、次は缶と雪の出番である。リアは軍手をはめた手で缶に雪を入れると思いっきり塩をかけた。そしてその中に瓶を入れると缶の蓋を閉める。同じものを五つほど作った。
二人は庭で神獣たちに協力をお願いした。缶を転がすと美味しいものができると聞いた雑食の神獣たちは、喜んで協力してくれた。三十分ほどみんなで缶を蹴り転がして遊ぶ。特に子ヒョウたちは頑張ってくれた。
時間がたったので缶を開け、瓶を取り出すと中には美味しそうなアイスクリームが詰まっていた。
騎士たちは先程から様子を見て困惑していたが、出来上がった物を見て合点がいった。そんな作り方があるのかと感心する。
リアは一昨日焼いたクッキーにアイスクリームを載せて功労者の神獣たちに食べさせてやる。タヌキは相当気に入ったらしく、飛び回って喜んでいた。子ヒョウたちはあまりお気に召さなかったようだが、遊ぶのは楽しかったようでまた作るなら手伝うよと言ってくれた。
沢山作ったので騎士たちにも振舞って、大満足のアイスクリームパーティーだった。
「次は味付きを作ろうか」
リアの言葉にリルとタヌキ達は喜んだ。
『温室のベリーを入れてよ』
タヌキはリクエストしてくる。ベリーがアイスクリームと合うと気がつくとは、タヌキはなかなかのグルメである。
美味しいもの効果なのかリルと似ているからなのか、タヌキはリアの膝の上にも乗ってくる。リアはタヌキを撫でるとこんな可愛らしい子と話せるリルが羨ましくなった。
リアは特に実家にいたというマロンとお話ししてみたかったが、残念ながら彼の言葉は、自分の耳にはチュウチュウとしか聞こえない。
リルに沢山友達が出来て嬉しいが、会話に入れないので複雑な心境だった。
でも、この拠点での暮らしはきっととても楽しい物になるだろうとリアは思う。膝の上で眠ってしまいそうなタヌキを撫でながらリアは笑った。
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