36.リルとリア
聖騎士たちの拠点に向かう馬車の中、リアは落ち着かない気持ちでそこに居た。
「腕輪は本当に着けないのかい?」
向かいに座っているリヴィアンが心配そうに言う。
リアは決めていた。この『真実の目』でリルの本心を確かめて、もし恨まれているなら一生リルの前から姿を消そうと。
そして、もしリルが自分を歓迎してくれるなら、リルにとっていい姉であり続けようと。
リヴィアンはリアの真面目さと、それゆえの不器用さを心配していた。
どうにも極端すぎるリアの覚悟に色々物申したい気分だったが、強情な彼女はきっと聞かないだろう。
もしリルに恨まれていたら、リアはきっと壊れてしまうように思う。
リヴィアンはため息をつく。リルが本心からリアを歓迎してくれる事を祈るしかないのはもどかしかった。
拠点に着くと、リヴィアンは先に馬車を降りた。
「リヴィ伯父さん!おはようございます!」
馬車の外から聞こえる、自分とよく似た声にリアは身を固くする。
早く馬車を降りなければと思うのに、体が動かない。
見かねたリヴィアンがリアを抱えて馬車から降ろす。するとリアは自分とよく似た顔を見て固まってしまった。
リルはキラキラと目を輝かせてリアの方へ歩いてくる。
「リアお姉ちゃん、初めまして!会えて嬉しいです!」
その言葉に嘘はなかった。リアは双子なのに自分より細く小さい妹の姿に涙が止まらなくなった。嬉しいのか悲しいのかも分からない、ただ涙をこらえることが出来なかった。
「ごめんね、リル。助けてあげられなくて、ごめんね」
リアは泣きじゃくりながら謝罪を繰り返す。リルは驚いてしまった。
「お姉ちゃん私は大丈夫だよ。怒ってないよ。泣かないで」
リルは慌ててリアに駆け寄って背中を撫でた。
リアは長い間泣いていた。ようやく落ち着いた頃、リアはじっとリルの目を見つめて問いかけた。
「リルは、私を恨んでないの?」
真剣な様子のリアに、リルは瞠目した。
「どうして恨むの?お姉ちゃんは何も悪くないでしょ?」
リアは、そっかと言って憑き物が落ちたような顔で笑った。
リアはいつの間にか自分の足元に小動物たちが集まっていたことに気がつく。
「みんなお姉ちゃんが泣いてるから心配してるの」
リルがそう教えてくれた。
「ごめんね、もう大丈夫だから」
そう言うと動物たちは少し離れていった。リアは初めて見た神獣に感動した。本当に人間の言葉が分かっているのだ。
「あのね、お姉ちゃんの歓迎会の準備をしたの!こっちに来て!」
リルはリアの手を取ると、あったかスポットまで引っ張っていく。神獣たちも参加すると言ったため、ピクニック仕様にしたのだった。
リルは手紙に書けなかったことを怒涛のように語り出す。姉に会えて興奮していたのだ。リアはそんなリルに静かに微笑みながら相槌を打つ。その光景は今日初めて会ったとは思えないほど自然だった。
口を出さずに見守っていたリヴィアンとイアンは、そっと胸を撫で下ろした。これでこの二人はもう大丈夫だろう。
「全く、ここまでえらい遠回りだったね。どれほどやきもきさせられた事か」
リヴィアンが溜息をつきながら言った。
「それだけの事があったのだからしょうがないでしょう」
「でも収まってみればこの収まりの良さだよ。一言言いたくなるじゃないか」
「仲が良さそうで何よりじゃないですか」
二人はそんな会話をするとリル達の元に歩いてゆく。
「それで、リアはどうするんだい?イアンの養子になってここで暮らす?」
歩いてきたと思ったらいきなり投げかけられた台詞にリアは固まる。
リルは目を輝かせてリアの腕を引っ張った。
「お姉ちゃん、そうしよ、一緒に暮らそうよ」
リアはそう言うリルに抗えそうもなかった。助けを求めるようにイアンを見るが、イアンはリルが嬉しいならそれでいいと思っている。
結局拒否する理由も見つからず、なし崩しにイアンの養子になる事になってしまった。
「えと……よろしくお願いします……お父さん?」
イアン達はなんともいえない顔で言うリアに、腹を抱えて笑ってしまった。
リアがイアンに慣れるにはもう少し時間がかかりそうだった。
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