35.お父さんの帰宅
今日のリルは朝からソワソワしていた。
『そんなに動き回っても時間は早く進まないわよ』
琥珀が呆れたように言う。
『まあいいじゃないか、お父さんが帰ってくるのが楽しみなんだろう?マフラーも作ったしね』
マロンは理解を示してくれているようで、せわしなく歩き回るリルを目を細めて眺めていた。
毎朝恒例の雪かきと神獣たちのお世話をしている間も、リルは早くお父さんが帰ってこないかなと考えていた。
昼頃になって、神獣たちのブラッシングをしていると。ルイスに乗ったイアンが帰ってきた。
「おかえり、おとうさん!」
リルは走ってイアンの元に駆けつける。
ルイスから降りたイアンは、リルの勢いに苦笑しながら抱き上げる。
「ただいま、いい子にしてたか?」
リルは大きく頷くと、この三日間であった事を怒涛のように話し始める。イアンは相槌を打ちながら、興奮冷めやらないリルを抱えたまま拠点に入った。イアンは本当にリアとは対極だなと思いながら、一生懸命話すリルを見つめていた。
「そうだ、お父さん!プレゼントがあるの!」
リルはイアンが居ない間に作ったマフラーを持ってくる。
「あのね、私が作ったんだよ!ロザリンさんに教えてもらったの」
イアンはマフラーの出来に感心した。リルは手先が器用らしい。
「ありがとう。上手に出来たな」
リルの頭を撫でて言うと、リルは得意げに笑った。
「そうだリル、話があるんだ」
一通りリルを褒めると、イアンは話を切り出した。
「リルの双子のお姉さんが今この国に居るんだ。彼女はレイズ王国から自分の意思で逃げ出したんだ。それを兄上が保護している」
リルは驚いた。まだ見ぬ姉が心配で、どうしてそんなことになったのかとイアンを問いつめる。イアンは詳しい事情を話した。
最後にイアンは言った。
「お姉さんは、リルを助けられなかったことをとても後悔してるんだ。リルに合わせる顔がないと言っている。リルがお姉さんを恨んでいないなら会ってあげて欲しい」
「お姉ちゃんに会えるの?本当に?会いたい、ずっと会ってみたかったの!」
リルは姉に会えることを心から喜んでいるようだった。イアンは安心した。
『良かったじゃないか!ミレイユは良い奴だ。きっとリルも大好きになるよ』
マロンがリルにそう言うと、イアンは大切なことを伝え忘れていたことに気がついた。
「お姉さんの今の名前はリアと言うんだ。クッキーのお姉さんが、リルのお姉さんだよ」
リルはきょとんとしていた。しかし徐々に意味がわかったのかとても嬉しそうに足をバタバタさせている。
「本当に?本当にリアお姉さんがリルのお姉ちゃんなの?やったー!」
リルの喜びようにイアンは会わせても大丈夫そうだとホッとした。
「お姉ちゃんとは一緒に暮らせる?ここに来てくれるかな?」
「俺の養子になるのを提案したけど、まだそこまで考えられないらしい。リルがお願いしたら、一緒に暮らせるかもしれないよ」
イアンの膝の上で、リルは大喜びで飛び跳ねている。
「いつ会えるの?すぐ会える?」
「明日ここに来てくれるよ」
リルは明日と聞いて有頂天だった。誰かにこの喜びを伝えたくて、神獣たちのところに駆けてゆく。
イアンはリヴィアンに、明日は予定通りで大丈夫だと魔道具の鳥を飛ばした。
リルは神獣たちに明日お姉ちゃんに会えるのだと伝えに行った。
みんな口々におめでとうと言ってくれる。
リルは近くにいたキツネを抱きしめると、仲良くなれるかなと不安を零した。
『大丈夫、リルを嫌いな人なんて居ないよ』
抱きしめたキツネが言ってくれるが、実際リルは両親に嫌われていたのだ。優しいお姉ちゃんにも嫌われてしまうかもしれないという不安があった。
神獣たちはリルに寄り添って慰める。
『歓迎の準備をしようよ、きっと喜ぶよ』
ウサギがリルの足に前足を乗せて言う。
『僕たちも一緒にお出迎えするよ』
タヌキがリルの背中に張り付いて存在をアピールする。
『僕もリルのお姉ちゃんだったらモフモフさせてあげてもいいよ』
子ヒョウがなんだか偉そうに的はずれなことを言うので、リルは笑ってしまった。
みんなの優しさに心が温かくなった。リルは嫌われないように頑張ろうと決意する。
リルはお姉ちゃんに会えるのがまた楽しみになった。
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