34.お祭り
今日は待ちに待ったお祭りだ。リルは昨日花火のために夜更かししてしまったが、今日はすんなり起きることが出来た。
それほどお祭りが楽しみだったのだ。琥珀とマロンはお祭りに行けないが、リルに合わせて早起きしてくれた。
リルがお祭りに行けるのは午前中だけだ。みんなが拠点を離れる訳には行かないからだ。みんなは午前と午後交代でお祭りを楽しむ。リルは両方行ってもいいと言われたが、自分だけ両方楽しむのは悪いと思ったので辞退した。神獣たちのお世話の仕事もある。
リルはロザリンとグロリア二人とお祭りに行く。琥珀たちに見送られて、馬に乗って拠点を出ると。街から楽しそうな音楽が聞こえてきていた。街の広場では旅芸人たちが集まって、芸を披露しているらしい。サーカスもやって来ているのだそうだ。
「先に朝ごはんにしましょうか」
グロリアが、屋台を指して言う。屋台からは今日限りの限定メニューだよと呼び込みの声が聞こえた。限定だと聞くと食べたくなるのはどうしてだろう。リルは不思議に思った。
三人でいくつかの料理を買って分け合って食べる。その間も軽快な音楽が聞こえてきていて、リルは楽しくなった。
聞くと王都では新しい国王のパレードが行われているらしい。街でも新しい国王の姿絵や写真が沢山売られていたが、その顔はイアンによく似ていた。イアンは本当に王子様だったのだなと、リルは改めて思った。
広場に行くと、吟遊詩人が初代国王の話を吟じていた。初代国王は神獣の怒りに触れ荒れていた国を平定した偉大な人だと言う話だ。リルには神獣の怒りに触れるというのがどういう事なのか分からなかった、だってみんなとっても優しい。何をしたらそんなに怒らせられるんだろうとリルは不思議だった。グロリアもロザリンも、そんなリルを見て穏やかに笑っていた。
今度ドラゴンのお爺さんに会ったら聞いてみようとリルは思った。
次にサーカスを見ようとテントに入ると、リルは感動した。サーカスの芸人さんはとても凄かった。ロープの上を歩いたり、火のついた輪っかを潜ったりするのだ。それにみんなの動きが揃っていてとても綺麗だった。
猛獣使いが舞台に立つと、リルはあれ?と思った。舞台の上のライオンは明らかに喋っていた。あれは神獣では無いのだろうか。
でもライオンはとても楽しそうだった。
『俺様の技を見よ!』
そう高らかに叫んでいたのだ。リルは一応ロザリンに報告しておいた。ロザリンは物凄く驚いていたが、楽しそうなら一先ず保留という事にしたようだ。リルと会ってから、人間社会に紛れている神獣もいるのだとロザリンは知った。
ライオンはこの一座の花形らしく大人気だった。周りの話を聞くと、このライオンを見に来たという人もいるくらいだ。一座の人は彼が神獣だと気づいているのだろうか。神獣は寿命が長いから、きっとどこかで気づくだろう。リルはライオンと一座の人がいい関係を築けるように祈った。
サーカスを見たら、テントの近くに占い師がいた。ロザリンが『占い師』というスキルを持っている人がいるのだと教えてくれた。彼女は占い師のスキル証明書を額に入れて飾っていた。スキル証明書を持っているということは本物の『占い師』だ。ロザリンが一応確認したら、証明書は偽造された物では無いらしい。たまに偽造証明書で商売をする人がいるのだそうだ。
三人は占いをしてもらうことにした。リルを見た占い師はこう言った。
「随分辛い人生を歩んでいらっしゃったようですが、これからは好転します。あなた自身が道を踏み外さなければ、周囲の人がきっとあなたの力になってくれるでしょう。あなたは人に恵まれます。注意するべきは過度な自己保身に走らないことです」
リルは気を引き締めた。要するに自分より周りを大切にするという事だろう。リルはこれからもみんなの為に頑張ろうと決めた。
ロザリンが恋愛運を占ってもらって沈んでいた。ロザリンはモテそうなのに何でだろう。少なくとも五年はいい出会いがないと言われたようだ。五年たったらロザリンの年齢は三十を超える。落ち込むのも仕方がない。リルはロザリンに同情した。
グロリアは仕事で認められると言われたようで上機嫌だった。
二人はロザリンを慰めるためにスイーツを食べにさそった。
楽しい時間はあっという間だった。適当に美味しそうなものを買って拠点に帰る。お留守番のみんなにも楽しい話ができそうだった。
拠点に帰ると、イアンから魔道具の鳥が来ていた。明日ちゃんと帰ってくるという内容だった。リルは嬉しくなって神獣たちに報告に行った。
神獣たちにサーカスのライオンの話をしたら、みんな転げ回って笑っていた。神獣的にはおかしな話だったらしい。みんな会ってみたいと言っていた。
お祭りがこんなに楽しいなんて知らなかった。やっぱり神獣たちにも経験させてあげたいなと、リルは思った。
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